樹木の光合成にともなう森林の炭素固定能力は、気候変動を緩和するための主要な解決策として期待されている。しかし近年、気候変動や物流のグローバル化が森林病虫害の拡大をもたらすことで、大規模な樹木枯死が世界各地で深刻化しており、森林の炭素固定能力の大幅な低下が危惧されている。日本では、北米から持ち込まれたマツノザイセンチュウ（Bursaphelenchus xylophilus）が引き起こすマツ材線虫病が北海道を除く全都府県に拡大し、マツ科樹木の大量枯死を引き起こしてきた。このような森林病虫害による大規模な樹木枯死は、樹木の光合成による森林のCO2吸収量を減少させるだけでなく、枯死木の分解に伴う大量のCO2放出を引き起こす。枯死木の分解には長い時間がかかるが、枯死木の量や分解速度によっては、森林を一時的にCO2放出源に変えてしまう可能性がある。そのため、森林病虫害によって発生した枯死木の分解特性と分解に影響を与える要因を評価することは、森林病虫害が森林のCO2吸収能力に与える影響を理解する上で重要である。本研究では、筑波山麓および富士山麓のアカマツ林内に、枯死年代、条件の異なるアカマツ枯死木を５本ずつ設置し、定期的にCO2放出量と温度や含水量などの環境条件の測定を行った。これらの結果から、アカマツ枯死木の初期分解特性とそれに影響を与える要因を推定するとともに、マツ枯れに伴う大規模な枯死木の発生が地域スケールの炭素循環に与える影響について考察する。