| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨
ESJ71 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-193  (Poster presentation)

魚類遡上期の琵琶湖流入河川におけるアンモニウムの起源推定
Origin of ammonium in river water during fish migration

*大西雄二(総合地球環境学研究所), 宇野裕美(北海道大学), 倉澤央(京都大学), 福島慶太郎(福島大学), 木庭啓介(京都大学)
*Yuji ONISHI(RIHN), Hiromi UNO(Hokkaido Univ.), Akira KURASAWA(CER), Keitaro FUKUSHIMA(Fukushima Univ.), Keisuke KOBA(CER)

生態系間を移動する動物は、物質を輸送することで、受け入れ側の生態系に栄養塩を供給する。特に水域生態系では、海や湖から遡上する魚類が排泄や死骸分解によって河川水中アンモニウムイオン(NH4+)濃度を上昇させる。一方で、遡上魚による河床撹乱は堆積物中栄養塩の溶出を促進すると考えられるが、その影響はこれまで調査されていない。本研究では、琵琶湖からの遡上魚排泄によるNH4+の起源について、堆積物からの寄与を定量的に評価した。
調査は2020年8月と2021年7月に滋賀県の鵜川・安曇川南流と北流・知内川・大川の5河川で行なわれた。琵琶湖流入河川では夏季に多回産卵型魚類のハス(Opsariichthys uncirostris)が大規模に遡上する。各河川それぞれ河口付近から上流までの約1〜4 kmの範囲に魚類密度の異なる6つの調査地点を設定し、各地点から河川水を採取した。得られた試料からNH4+のδ15Nを測定し、ハス排泄NH4+や堆積物中NH4+のδ15N値と比較し、NH4+の起源を推定した。
全ての河川で、魚類(ハス)バイオマスは河口付近で最も高く、河口からの距離の増加に伴って減少していた。また、NH4+の濃度とそのδ15N値は、魚類バイオマスの大きい河川下流で高く、上流に向かって減少していた。このことは、ハスの存在がNH4+濃度を増加させていることを示している。また、濃度とδ15N値の関係から推定される、増加したNH4+の起源は、堆積物NH4+が2.9%(知内川)~ 41.7%(鵜川)でどの河川も排泄が大部分を占める(鵜川では58.3%〜知内川では97.1%)ものの、河川によっては堆積物からの寄与も大きいことが明らかとなった。このことは、河川の状態(例えば、底質の粒径や堆積物のNH4+濃度など)によっては、遡上魚類からの直接的なNH4+の付加だけでなく、河床撹乱のような物理的なNH4+付加効果も重要である可能性を示している。


日本生態学会