| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨
ESJ71 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-197  (Poster presentation)

ソメワケササクレヤモリの温度応答表現型を実現する遺伝子制御メカニズムの解明【O】
Gene regulatory mechanism that realizes temperature response in Madagascar ground gecko【O】

*Fuku SAKAMOTO(Tohoku Univ.), Shunsuke KANAMORI(Tohoku Univ.), Félix RAKOTONDRAPARANY(Univ. of Antananarivo), Takashi MAKINO(Tohoku Univ.), Masakado KAWATA(Tohoku Univ.)

地球温暖化などの近年の気候変動は、多くの生物種を絶滅の危機に陥れている。特に、環境温度に熱源の多くを依存する爬虫類などの外温性生物は気候の影響をより敏感に受けると考えられ、トカゲ類では2080年までに約20%の種が絶滅すると予想されている。気候変動から種を適切に保全するためには、温度等の生息環境に対する応答機構を詳細に理解することが重要である。外温性生物における温度への応答は、心拍数などの瞬間的な身体応答だけではなく、季節など長期的な温度変化に対する順化、日光浴をはじめとする体温調節行動など様々な様式が絡み合いながら実現されると考えられるが、このような複雑な応答様式を制御する遺伝子調節のメカニズムはほとんど明らかになっていない。マダガスカル原産のソメワケササクレヤモリ(Paroedura picta)は、飼育が容易で年間を通して繁殖が可能である、全ゲノムが解読されているという点などから爬虫類における新たなモデル生物種として近年注目されている。本研究では、行動実験により本種の温度に対する応答を定量化し、温度応答表現型を実現する遺伝子制御メカニズムを調査するため、RNA-seqとATAC-seqにより複数の温度条件における遺伝子発現とクロマチン状態を調査した。まず、本種を異なる温度(25℃と30℃)で飼育し、温度順化によって温度応答指標に差が生じるかを観察した。測定項目は他の種でも広く測定されているものとして、個体が自ら選択する体温(選好温度)、様々な体温における身体能力(走行速度)、臨界最高または最低温度の四指標を選択した。測定の結果、25℃と30℃順化間で走行速度、臨界最高温度、臨界最低温度に有意な差が生じることがわかった。さらに本発表では解析中のRNA-seqとATAC-seqの結果から、こうした違いを生み出す遺伝子の発現制御メカニズムについて議論したい。


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