| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨
ESJ71 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-198  (Poster presentation)

ハエ類捕食寄生がヤスデ類で見られるミュラー型擬態を含む警告色多様化に与える影響
Investigating the impact of fly parasitoidism on warning coloration diversification, with specific reference to Müllerian mimicry in millipedes

*田辺力(熊本大学), 本間淳(琉球大学), 曽田貞滋(京都市)
*Tsutomu TANABE(Kumamoto Univ.), Atsushi HONMA(Univ. of the Ryukyus), Sota TEIJI(Kyoto City)

毒を持つ複数の種が似た警告シグナルを共有することで捕食者の忌避学習を促し、捕食から逃れるミュラー型擬態では、その相利性から、警告シグナルは単一のものへと収束すると予測される。しかしながら、警告シグナルに多様性が見られる例があり、その進化機構は議論の的となっている。青酸系の毒を持つミドリババヤスデ種複合体とアマビコヤスデ属は、日本本土で分布が重なり、共によく似た灰色の体色を呈する。体色反射波形を用いたJND解析から、灰色は主要な捕食者と想定される鳥類に対してよく目立つと推定された(後述のオレンジは灰色より目立たない)。よって、この体色の類似はミュラー型擬態環と考えられる。東海、関西地方に生息するミドリババヤスデ種複合体では、RAD-seq系統樹を用いた体色の祖先状態復元の結果、灰色擬態環からの離脱(非擬態型オレンジもしくは非擬態型の灰色とオレンジの中間色への移行)、別のオレンジ擬態環への移行が推測された。さらに、灰色、中間色、オレンジの集団は地理的にモザイク状に分布し、アバンダンス(集団数、個体数)に大きな偏りはない。これはミュラー型擬態が関与した警告色多様化の稀な進化パターンであり、その創出機構としてハエ類捕食寄生に着目し、以下の結果を得ている。(1)ハエ捕食寄生率は灰色と中間色のヤスデ集団に比べてオレンジ集団で低い。(2)飼育観察から、ハエに産卵されたヤスデの約半数がハエにより死亡。(3)ヤスデ集団のハエ捕食寄生率は0〜45%で、集団毎に時間的に安定している傾向がある。(4)高い捕食寄生率は灰色と中間色の地理的にばらついたヤスデ集団で観られる。(1)〜(4)から、ハエの捕食寄生は、ミドリババヤスデ種複合体の灰色と中間色の一部の地理的にばらついた集団に対して継続的な強い選択圧となってオレンジへの移行を促し、3体色集団の地理的モザイク分布をもたらした一つの要因と考えられる。


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