| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-205 (Poster presentation)
クモは陸上生態系における普遍的な捕食者であり、地球上において年間4–8億トンもの昆虫を捕食すると推定される(Birkhofer & Nentwig 2019)。そのため、クモは作物害虫の多発生を防ぐ重要な役割を果たしていると考えられ、その生態的役割は古くから注目を集めてきた。日本でも1960年代から農地のクモを対象とした生態学的研究が行われてきたが、その多くは水田を対象としており、畑地や果樹園においては体系立った調査は少なく、クモ相に関する知見は断片的である。また畦畔などの圃場の隣接環境におけるクモの多様性に関する知見も限られている。つまり、個別の研究事例はあるものの、それらの知見が統合されていないため、農地におけるクモの多様性の実態は不明な点が多い。
そこで、著者らは過去の文献と農水省委託プロジェクト研究で得られたデータを統合し、農地タイプや空間階層、周辺環境ごとにクモの多様性や種構成を明らかにすることで、日本の農地におけるクモの種多様性の把握を試みた。まず文献レビューにより合計86本もの農地のクモに関する文献が集まり、その内訳は水田の文献が34、果樹園が19、畑地(茶・キャベツ等)が33本であった。農地タイプごとに種数を比較したところ、水田と果樹園、畑地の種数はそれぞれ121、128、51種であり、補正無しの値では畑地で種数が少なかった。次にデータを選定し種構成を比較したところ、水田と果樹園では共通種が少なく、種の入れ替わりが非類似度に強く寄与していた。一方、畑地のクモは他の農地タイプの部分集合であり、入れ子構造が見られた。また、委託プロジェクトで得られた関東地方の広域データを基に、水田のクモの種多様性を圃場内・地域内・地域間の空間階層に分割して比較を行ったり、圃場と畦畔でクモの種構成・種数を比較するなど、さまざまな空間階層において種多様性のパターンの比較を試みた。これらの結果を基に今後目指すべき研究の展開について議論する。