| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-206 (Poster presentation)
都市部を含め、身近な河川の河口域~中流域に生息するチチブ属魚類については、長年、河川内の塩分クラインに沿った種ごとの分布範囲の違いが指摘されてきた。チチブはヌマチチブより塩分の高い下流側に生息し(明仁親王,1987)、アカオビシマハゼはシモフリシマハゼより塩分の高い下流側に生息するとされてきた(明仁・坂本、1989)が、国内の個別の水系内において4種の分布範囲がどのように重複あるいは相違しているのかという具体的なデータは、以下の4つの理由からほとんどの水系で得られていない:4種を日常的に釣獲する機会のある川釣り者の間では、現在でもしばしば“ダボハゼ”として混同され、ヒアリングしても正確な分布情報が得られない;4種を識別可能なハゼ釣り者の間でも、“マハゼ釣りの外道”で“どこでも釣れている”との認識バイアスが存在している;魚類の専門家であっても、チチブ・ヌマチチブを誤同定して発表しているケースが多々見られる;4種を識別可能な専門家であっても、河川の上流域~河口域からスポット的に選定した場所で全魚種対象の網羅的調査を行う場合が多く、下流域内の4種の分布の重複・相違を検討できるようなデータは得られない。
そこで今回、身近な都市型河川を代表する多摩川を対象に、次のようなアプローチによって上記課題をクリアし、4種の共存分布データが得られたので報告する。①4種を飼育観察し、誤同定しやすいポイントを明確化。②多摩川における過去の断片的な調査報告に加え、オンラインの釣獲情報共有サイト上の釣れたハゼの写真と場所を参考に、調査ステーションを数か所設定。③4種を主対象とした釣り調査手法により、各ステーションの生息状況を調査。④その結果を基に、ステーション間の区間を釣り歩いてサブステーションを追加し、各種の分布の境界を特定。今回得られた結果を数少ない他水系における既往知見と比較し、今後の方向性について論じたい。