| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-208 (Poster presentation)
遺伝的多様性は、さまざまな生物種内の個体間でみられる普遍的な現象であり、種多様性とともに生物多様性を成立させる要素である。従来の生態学においては、個体間の遺伝的変異は平均化され、生態的動態に対する遺伝的多様性の影響を積極的に考慮してこなかった経緯がある。一方、近年では、種多様性だけでなく遺伝的多様性も個体群や群集の動態、生態系機能(生産性など)を非相加的に変化することがわかってきている。このような生態的効果は、それぞれ「種間多様性効果」と「種内多様性効果」と呼ばれている。しかし、生態的動態において、種内多様性効果が種間多様性効果に対して相対的にどれほど重要であるかの理解は進んでいない。なぜなら、多くの研究は種間と種内の多様性効果を別々に検証してきたからである。そこで、本研究では、ショウジョウバエ(Drosophila)属昆虫5種を用いて、種多様性と遺伝的多様性を実験的に操作した群集または個体群を作成し、それらの生産性を同時に測定することで、種間多様性効果と種内多様性効果を直接比較した。野外に生息するショウジョウバエ5種の雌成虫を採集し、各種の近交系統(単雌系統)を複数作成した。まず、各系統それぞれを単独で飼育し、個体群全体の重量を測定した。次に、各種内の2系統の組み合わせと2種間の系統の組み合わせで混合飼育し、遺伝的に多様な個体群と群集全体の重量を測定した。最後に、種内の組み合わせと種間の組み合わせにおいて、各多様性効果(組み合わせの生産性の実測値と各系統でみられた生産性の期待値との差)を算出した。その結果、種内多様性効果が種間多様性効果を卓越する傾向にあることがわかった。遺伝的多様性は種多様性よりも生態的動態に対して大きなインパクトをもちうることが示唆された。