| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-210 (Poster presentation)
Chydorus属(マルミジンコ)は底生性・沿岸性の微小甲殻類であるが、1990年代に琵琶湖北湖の沖合域に出現し始め、個体群サイズを増加させていることが、湖底堆積物の解析で示されている(Tsugeki et al. 2003)。ただし手法の制約上、種同定までには至っていない。日本産Chydorus属は東アジア在来のC. sphaericus(広義、以後Csph)とされてきたが、他にも北米種のC. brevilabris(以後、Cbre)が、2000年代には既に日本各地に分布していたことが最近わかった。そこで本研究では、京都大学理学部附属大津臨湖実験所および京都大学生態学研究センターの事業として実施されている琵琶湖定期観測で得られた、琵琶湖北湖・沖合域(近江舞子沖)のプランクトン試料中のChydorus属を調べ、1990年代に突然現れたのが北米原産種Cbreなのか、あるいは東亜在来種Csphなのか、を明らかにすることを目的とした。試料中には、Chydorus属は1993年11月に初めて出現したが、これは全てCbreであった。この北米種は、以後も同年12月、1994年8月、1997年9-11月、1998年8-10月、1999年8月と11月、そして2000年9-10月に採集されていた。各月の鉛直分布を層別採集試料にて調べると、どの月でも個体群のほとんどは表水層(水温躍層よりも浅い層)に分布していた。一方、東亜在来種Csphは、2000年までの間、全く採集されていなかった。以上の結果から、Tsugeki et al.(2003)の堆積物解析は、北米原産種Cbreが、1990年代以降、沖合の表水層に頻繁に出現するようになったことを捉えていた、と解釈できた。さらに本研究は、東亜在来Csphが全く利用できないハビタット(沖合の表水層)を北米原産Cbreは(少なくとも短期間は)利用できる、という点を新たに指摘できた。