| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-213 (Poster presentation)
近縁種が分布を接すると,不適応な種間相互作用を回避できる形質変異が有利になり,結果として種間の形質分化が促進されることがある.交尾器形態における生殖的形質置換はその一例であり,近年その報告例が増えつつある.しかし,その多くは接触地域において形態分化が生じていることを報告しているのみであり,形態分化が不適応な種間相互作用をどのように回避するのかについては明らかでない.そこで本研究は,種特異的な雌雄交尾器に生殖的形質置換が見出されたマヤサンオサムシを対象に,交尾器形態変異と種間交尾コストの低減との関係を行動実験によって検証すると共に,その背景にある雄交尾器の柔らかさの進化を物性測定により検証した.
近縁種と分布を接触する集団において,より長い雄交尾器は異種との交尾において破損するリスクが低く,また種間交尾時間を短縮することが見出された.これは,長い雄交尾器は種間相互作用のコストを低減する上で有利になるような淘汰を受けていることを示しており,生殖的形質置換をもたらした進化的原動力を特定しえた点で重要である.また,接触集団において長くなった雄交尾器は,単独集団の短い雄交尾器よりも柔らかかった.これは,交尾器における生殖的形質置換は,形態だけではなく物性にも生じることを示している.柔らかい交尾器は,破損の回避や,異種交尾器の探知と異種交尾の早期終了に役立つ可能性がある.
興味深いことに,長い雄交尾器による種間交尾コストの低減は,一部の単独集団でも見られた.また,交尾器が長いほど柔らかくなる傾向は,接触集団に加えて,一部の単独集団内の個体間変異のレベルでも観察された.これらは,雄交尾器形態と物性との相関が近縁種との接触前から存在することを示すとともに,形質間の相関が,淘汰に対する間接的な反応を通じて,交尾器形態と物性に生じた生殖的形質置換の進化を促進した可能性を示唆する.