| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-216 (Poster presentation)
被子植物の性表現の大多数を占めるのは両全性であり、動物では一般的な雌雄個体が分離する性(雌雄異株)は少数派で6%程度にすぎない。それにも関わらず、雌雄異株性への進化は多くの分類群で何度も独立に起こったと考えられている。従って、雌雄異株性の遺伝的基盤が明らかになれば、性別の獲得という植物で起こった収斂進化の生態的意義や分子メカニズムについて新たな知見が得られる可能性がある。オオバシマムラサキを含む小笠原諸島に固有のムラサキシキブ属(シソ科)3種は、本属の中で唯一の雌雄異株であることから、両全性の祖先種が島に移入後に雌雄異株化したと考えられる。従って本種は両全性から雌雄異株への変遷過程で起こったゲノム進化を調べるのに適した分類群である。本研究ではオオバシマムラサキを対象に、①全ゲノム解析による性決定領域内におけるハプロタイプの比較と②トランスクリプトーム解析による花芽の雌雄分化に関係する遺伝子の探索を行った。解析の結果、本種群は雄ヘテロ(XY)型の性決定様式を持ち、性決定領域におけるXYのハプロタイプ間で遺伝子の配列や順番が高度に保存されていることが明らかになった。遺伝子間領域に基づく分岐年代推定から、XY間で組み換え抑制が始まったのが数十万年前であることが推定され、本種の雌雄異株性の起源は被子植物全体で見るとかなり新しいことが示唆された。4つの開花ステージごとに花芽から抽出したmRNAを用いて、 Lasy-seq法による比較発現解析を行った結果、どのステージでも雌雄間で検出された発現変動遺伝子は非常に少なかった。これらの結果から、オオバシマムラサキの性決定遺伝子は花器官形成に関与する遺伝子カスケードの末端部に位置している、あるいは特定の組織でのみ発現差が生じている可能性が示唆された。