| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-218 (Poster presentation)
真核生物の生活環には多様性がみられる。生活環という根源的な特徴の違いは、他の表現型の適応進化を促進または制限しうる。多くの植物の生活環では、受精した接合子(受精卵)は複相で多細胞の胞子体に発生するが、一部の植物では、接合子は単細胞体のままである。このような生活環の違いは異なる環境への適応ではないかと長年に渡って考えられてきた。これらの生活環に加えて、我々は近年、海産緑藻の一種エゾヒトエグサ(Monostroma angicava)において、接合子が単細胞シストにも多細胞胞子体にも発生するという生活環の種内多型を発見した。表現型の種内多型は、変動する環境下での最適戦略である可能性がある。本研究では、エゾヒトエグサとその近縁種をモデルとして、培養実験により得た適応度パラメータと種内多型を考慮した数理モデリングにより、緑藻の生活環が異なる環境で多様化する原理を探索する。我々はi) 接合子が胞子体に発生する割合が生活環のタイプを決定すること、ii) その最適な割合は環境によって異なる可能性、iii) 胞子体は単細胞シストより潮間帯の環境圧に対し脆弱であると考えられていることに着目した。培養実験では、エゾヒトエグサ接合子は遺伝子型や環境に依らず多細胞胞子体に発生した。これは、生活環の種内多型が時間的な環境変動への適応である可能性を示唆する。接合子が示す異なる発生運命の間で次世代の子供の数を比較すると、胞子体への発生は潜在的に適応度上有利であることが示唆された。我々のモデルは接合子の発生運命に基づく異なる生活環のタイプが異なる環境で適応度を最大化しうることを示した。本研究は緑藻でみられる生活環の違いは異なる環境への適応として生じ得ることを示唆し、その多様化を検証する枠組みを提示できる。