| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨
ESJ71 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-221  (Poster presentation)

アブラムシの多重化した内部共生を支える器官の構造多様性
Diverse structures of aphid symbiotic organs harboring multiple symbionts

*野崎友成(基礎生物学研究所, 総合研究大学), 小林裕樹(基礎生物学研究所), 重信秀治(基礎生物学研究所, 総合研究大学)
*Tomonari NOZAKI(NIBB, SOKENDAI), Yuuki KOBAYASHI(NIBB), Shuji SHIGENOBU(NIBB, SOKENDAI)

多細胞生物と微生物の間の共生関係は普遍的である。多くの昆虫は、体内に共生細菌を保持するための特殊な臓器を獲得しており、それぞれの分類群に特異的な新規形質とみなすことができる。アブラムシと、彼らの生存に必須な栄養供給に特化した細菌Buchneraは相利共生関係にある。アブラムシは共生細菌を保持するための共生器官を有しており、その構造、形成プロセスは多くの研究者によって丹念に調べられてきた。基本的に共生器官は高度に倍数化した巨大細胞(共生ホスト細胞)とその間隙を埋める鞘細胞から構成されていることが分かっているが、観察例は最もシンプルな系に偏重しており、共生関係がより複雑化している系、つまりBuchneraに加え他の共生細菌がアブラムシとの栄養共生に組み込まれている系での観察は少ない。
我々は、複数の共生細菌を保持しているアブラムシに着目し、共生器官の構造と共生細菌の局在に関する多様性を明らかにした。Buchneraに加え、Serratia symbioticaに感染している3種のアブラムシ(Ap = Acyrthosiphon pisum・Lt = Lachnus tropicalis・Cc = Cinara cedri)に対し、アブラムシ共生器官の観察を行った。これらSerratiaはそれぞれ共生細菌としての進化段階:栄養共生への統合化度合いや共生に不要な遺伝子の欠失の程度が異なり、順番に低・中・高とカテゴライズできる。ApにおいてSerratiaは扁平な鞘細胞のみに、CcにおいてはBuchneraのものとは異なる共生ホスト細胞に局在することが分かった。LtにおいてSerratiaは鞘細胞様の細胞のみにみられるものの、その細胞はApの鞘細胞よりも明らかに巨大であった。先行研究の結果と併せることで、進化段階の低いSerratiaは共生器官以外の臓器にも見いだされ、段階の高いものは共生ホスト細胞にしか局在しないというパターンが明らかになった。本発表では、観察データを踏まえて共生細菌の置換・新規参入とホスト側の進化(新規器官の獲得や共生者の局在制御)の関係性を議論・考察したい。


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