| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-222 (Poster presentation)
小笠原諸島のタブノキ属は分類上、ムニンイヌグス(以下ムニン)、コブガシ(以下コブ)、テリハコブガシ(以下テリハ)の3種が確認されている。父島列島にはムニン、コブ、テリハの3種が、母島列島にはムニン、コブガシの2種が分布している。先行研究より、父島のムニンは開花期の異なる2つのエコタイプ(春咲、秋咲)に、コブガシは父島と母島で葉裏の毛の形態が異なる2つのエコタイプ(父:絨毛、母:直毛)に分化していることが分かっている。本研究では、小笠原諸島固有のタブノキ属に対してRAD-Seq解析を行い、タブノキ属の種およびエコタイプ分化のパターンと時期を調べた。解析に用いた集団は、父島ではムニン春咲、ムニン秋咲、コブ絨毛、テリハ、母島ではムニン秋咲、コブ直毛の各2-4集団、計16集団である。これらの集団は、種、開花期、地域に対応する6つのグループ(父ムニン春咲、父ムニン秋咲、母ムニン秋咲、父コブ絨毛、母コブ直毛、父テリハ)に分けられた。これらの6つのグループを対象に集団動態解析を行った結果、世代時間を10年とすると、15万年前に祖先種から父ムニン春咲、ムニン秋咲の祖先種、コブ+テリハの祖先種の3つに分化し、6万年前に父ムニン秋と母ムニン秋が分化、ほぼ同時期に父コブ絨毛が母島に移住し母コブ直毛が分化、その後母島のコブ直毛が父島に移住しテリハに分化したことが示された。系統解析では、父ムニン春が最も祖先に近い位置にあり、開花期も他のムニンと異なることから、父ムニン春は隠蔽種だと考えられる。また、父コブ絨毛と母コブ直毛は葉裏の毛の形態に明らかな違いがあり、遺伝的にもはっきりと区別できることから、母コブ直毛も父コブ絨毛とは異なる隠蔽種だと考えられる。小笠原諸島のタブノキ属は2度の一斉分化を経て、主に父島と母島の間の異所的種分化により5種に分化していることが明らかとなった。