| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-223 (Poster presentation)
コオロギ科昆虫の雄は性成熟すると、前翅を擦り合わせて鳴き声によって雌を呼び寄せることがよく知られている。雌雄が出会った後、雄は短い鳴き声やダンス等で雌の気を引き、雌が上に乗り雄が下に潜り込む形で交尾をする。交尾は雄が精包を雌の腹に付けることで成立する。雄は、交尾の際に身体の一部や体液等を雌に贈ることが多く、雌は渡された精包自体も摂食する。このような求愛・交尾行動はコオロギ科昆虫の中でも種群ごとに多様である。直翅目キリギリス亜目昆虫の中でも、系統学的にコオロギ科とヒバリモドキ科の間にはマツムシやスズムシを含む多様な科および亜科の昆虫が記載されているが、それらの昆虫では雄が胸部背面の腺から出す分泌液によって雌を誘引し、雌がその分泌液を摂食している間に交尾を成立させる種が知られている。この分類群においては、分泌液について知られていない種でも交尾中に雌が雄の翅の下に顔をうずめる種が多く、この交尾行動においては進化生態学的な保存性があると考えられる。我々はその中でもカンタン亜科昆虫に着目した。カンタン亜科昆虫は、1.5 cm程度の大きさで、主に植物食で、植物の上でほぼ一生を過ごす。性成熟すると雄は植物に開けた穴や葉の隙間に入って鳴くことで音を反響させて雌を呼び寄せる。雄は背中に分泌腺を持っており、雌はその匂いに誘引され、分泌液を舐めとっている間に交尾が成立する。特にカンタンは、XO型染色体を持つ直翅目の中で、新たにY染色体を獲得しており、性選択などを要因とする特有の進化を経験している可能性が考えられる。日本には、カンタン(Oecanthus longicauda)やヒロバネカンタン(Oecanthus euryelytra)など5種が報告されている。本研究では、カンタンの雌雄の部位別のRNA-seq解析を行い、カンタンの求愛・交尾行動に関する遺伝子を調べると共に、これらの遺伝子の分子進化について考察した。