| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨
ESJ71 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-226  (Poster presentation)

中間宿主における毒性進化を考慮した3種系の感染症動態モデル【O】
Three-species infectious disease dynamics model considering virulence evolution in intermediate hosts【O】

*山村大樹, 谷内茂雄(京都大学)
*Taiki YAMAMURA, Shigeo YACHI(Kyoto University)


 我々が感染する病原体の多くは自然界の自然宿主に由来し、これらの病原体が自然宿主からヒトへのスピルオーバーを通じて感染症を引き起こすことが一般的である。従来のスピルオーバーに関する感染症研究は自然宿主からの直接感染に焦点を当てていたが、近年では中間宿主を介したヒトへのスピルオーバーも頻繁に起こっていることが明らかになっている。特に、中間宿主における病原体の変異はスピルオーバー過程において重要な役割を担っており、例えばインフルエンザウイルスにおけるブタやヘンドラウイルスにおけるウマは、それぞれMutatorやAmplifierとして機能していると考えられる。
 本研究では、中間宿主の毒性進化におけるMutatorとしての役割に着目し、自然宿主に適応した毒性を持つ原株と中間宿主に適応した毒性を持つ変異株が存在する自然宿主、中間宿主、ヒトの3種系に基づくSIRモデルを構築し、理論的解析と数値シミュレーションを行った。その結果、この3種系モデルは唯一の安定平衡解を持ち、感染症が常在する状態に系が収束することが判明した。これは、ヒト集団における基本再生産数R0を操作しても、感染症を根絶することは不可能であることを示唆している。
さらに、数値シミュレーションにより、パンデミック時にヒト間の接触率を減少させる対策が、場合によってはより毒性の高い病原体株の感染者数を増加させる可能性があることが示された。これは、ヒト間の接触率の低下が常に有益な結果を生むわけではないことを意味する。
 本研究からは、未知の感染症に対応するためには、ヒトだけでなく自然宿主や中間宿主を含む包括的なモデルの構築と解析が必要であり、感染症対策を考える上で人間社会だけでなく自然界も考慮する必要があることが再確認された。


日本生態学会