| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨
ESJ71 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-228  (Poster presentation)

カキ養殖の意思決定に関する進化ゲーム理論解析
The decision-making of oyster farming analyzed by the evolutionary game theory

*Mayuko NAKAMARU(Titech), Hiroyuki YOKOMIZO(NIES), Kazuo YAMADA(Titech), Ayumi ONUMA(Keio Univ.)

南三陸の志津川湾ではカキ養殖が行われてきた。東日本大震災前は戸倉地区ではカキの筏が過密状態となり、そのためカキの生育に時間がかかり粒も小さいため収入も少ない状況であった。養殖者もカキの筏を出し過ぎると粒が小さくなることはわかっていながら、収益を上げるためには筏を増やしてしまっていた。東日本大震災後、筏が壊滅してしまったが、このことをきっかけに戸倉地区で筏の数を震災前の1/3に減らしたところ、カキの生育が早くなり粒も大きくなり、収益があがったのである。これは1/3革命と呼ばれている。
 このような状況について養殖者の意思決定に関する数理モデルを作成して解析をおこなった。各養殖者エージェントは自分に割り当てられた海域内で何割カキ筏を出すかの意思決定をする。カキの成長は、地域全体の筏の割合で決まり、筏の総量が多いほどカキの成長が遅くなると仮定する。自分の収益は筏の量とカキの価格に比例するとした。一方、自分の筏の数を増やすと労働コストがかり、地域全体の筏の数が増えるとカキの養殖期間も長くなりその分労力がかかるという仮定も入れた。各エージェントの効用は収益から労力を引いたものとする。
 震災前の養殖者の意思決定は、効用の高い養殖者の行動の真似をすると考えると、進化ゲーム理論を用いて数理的に解析が可能となる。震災後の養殖者の意思決定は皆で合意した行動をとると解釈し、効用の最適値を計算した。計算結果として、進化的に安定な戦略よりも最適値の方が筏を出す量が少なくなることを示した。つまり、戸倉地区の震災前と震災後の筏の状況を簡単なモデルで表現できたことになる。
 今後はカキやプランクトン、栄養塩などの生態系ダイナミクスを加えたモデルを組み込み解析を行う予定である。


日本生態学会