| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-237 (Poster presentation)
淡水性の大型カメ類であるワニガメ属の種(以下、ワニガメとする)は、環境省・農林水産省の「我が国の生態系等に被害を及ぼすおそれのある外来種リスト」において、「その他の定着予防外来種」にリストアップされている外来種である。動物愛護管理法においては特定動物(危険な動物)に指定され、都道府県知事の許可を得た上での飼育が可能な種であったが、法改正に伴い2020年6月以降は愛玩目的での新たな個体の飼養・保管は禁止されている。近年、国内各地で飼育個体の遺棄と考えられる個体が相次いで発見されており、茨城県においても複数の目撃・捕獲事例がある。これまで国内におけるワニガメの自然下での産卵は2例記録されているが、いずれも卵の孵化能力について不明であった。2021年6月2日に、茨城県牛久市の稲荷川沿いで産卵中の個体が釣人により発見された。この個体は産卵後に川に戻ったが、同日、産卵地点の掘り返しにより47個の卵が回収された。本研究ではこのうち、36個について人工孵卵実験を行った。卵は産卵から16時間以内に安置状態とし、2つの温度条件下で保管した上で、卵の切開などにより、発生状態を随時記録した。結果、発生の進行が確認された卵の割合は、産卵日から30℃の恒温器内で保管した10個で70%、46日後まで実験室の室温下で保管したのち30℃の恒温器に移行した26個で42%であった。カメ類では、産卵後の卵がおかれた温度環境が発生結果に影響することが指摘されており、本研究結果だけで、自然条件下でのワニガメの卵の発生成功を示すわけではない。しかしながら、自然産卵されたワニガメの卵が発生能力を有していることが、国内で初めて明らかとなった事例であり、今後、ワニガメの国内定着の可能性を考える上で重要な知見といえる。実験に供した卵が有精卵となった過程として、交尾が自然下で行われた否かは不明であるが、今後も自然繁殖の可能性について注視する必要がある。