| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨
ESJ71 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-242  (Poster presentation)

西表島の湿性環境における希少植物の生育要因【O】
Habitat of rare wetland plants in Iriomote Island【O】

*高岸慧(東京農業大学), 宮本太(東京農業大学), 内貴章世(琉球大学)
*Kei TAKAGISHI(Tokyo Univ. of Agriculture), Futoshi MIYAMOTO(Tokyo Univ. of Agriculture), Akiyo NAIKI(Univ. of Ryukyus)

水田とその周辺の環境は、湿性植物など生物多様性に富んだ生態系である。しかし、農業の集約化や農業従事者の高齢化に伴う耕作放棄、作付作物の変更による環境改変、除草剤の散布、乾田化に伴い多くの湿性植物が消失している。沖縄県竹富町に位置する西表島には農地改良などが実施されていない水田群が僅かに残存している。それらの水田には除草剤などの農薬を使用しない区域もあり、その周辺には耕作放棄水田もある。これらの環境の植生動態を観察した結果、他の水田では観察できない希少種を含む植物群が多く生育していることが明らかになった。今後、これらの植物群の保全には生態的特性などの情報が必要である。本研究は希少種の生育を規定する要因を明らかにすることを目的とした。マルミスブタおよびヒメシロアサザは耕作水田内のみで観察され、同所的にヒデリコ(平均草丈:22 cm)やスズメノハコベ(平均草丈:5 cm)など低茎の湿性植物が優占した。これらの植物群の生育は、水および光要因が重要であることが明らかになった。オオシラタマホシクサおよびスイシャホシクサは耕作放棄水田に観察され、同所的にチゴザサ(平均草丈:55 cm)やアメリカハマグルマ(平均草丈:35 cm)が優占し、耕作水田と比較して群落内の光環境は暗かった。しかし、ハイキビ(平均草丈:109 cm)が優占する立地ではより暗い光環境であり、ホシクサ類の生育は観察されなかった。ホウキガヤツリは土壌含水率33 %以下の畦畔法面のみで観察された。このことからホウキガヤツリは微地形によって創出される水分環境の影響を受けていることが明らかになった。これらのことから、希少植物は耕作水田、耕作放棄水田、畦畔法面の異なる生態的ニッチに適応した種がそれぞれ生育しており、今後の保全・保護には耕作水田の継続的な利用、耕作放棄水田における高茎草本の抑制を目的とした管理、畦畔法面における地勢の保全方法を検討する必要がある。


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