| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨
ESJ71 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-255  (Poster presentation)

生息地の分断化解消が招く正と負の影響:北海道常呂川の絶滅危惧種オショロコマを例に
Positive and negative effects of restored habitat connectivity: a case of endangered salmonid species in the Tokoro River, Hokkaido.

*福井翔, 小幡祐資, 井場海晴, 白石健太(東京農業大学)
*Sho FUKUI,, Yusuke OBATA, Kaisei IBA, Kenta SHIRAISHI(Tokyo Univ. of Agriculture)

 ダムは、魚類の河川内移動を阻害するため、世界中で問題視されている。ダムの上流域では、魚類の個体群サイズの縮小や遺伝的多様性の低下、個体群絶滅などが生じている。こうしたダムによる負の影響については、これまで多くの研究で調べられてきたのに対し、正の影響に関する知見は乏しい。例えばダムには、下流域の優占種から上流域に生息する希少種の個体群を隔離する役割がある。つまり、魚類の移動阻害の解消を目的とした魚道の設置が、むしろ希少種の個体群を減らす恐れがある。したがって、魚道設置前に、ダムが魚類に与える正と負の両方の影響を評価しておく必要がある。そこで本研究では、北海道常呂川水系の一河川を対象に、ダムの上流域と下流域において(1)河川性サケ科魚類の流程分布と種組成を調べ、(2)現在の物理環境データから魚道ができた際の魚類への正と負の影響について考察した。
 調査河川は、北海道常呂川水系のホロカトコロ川とした。本調査河川の周辺では、本州由来のサクラマス群(アマゴ)が移殖され、在来のサクラマス群(サクラマス)との交雑も報告されている。2023年6月と7月に、調査河川に設置した11箇所の調査区で、電気ショッカーを用いた魚類捕獲調査を実施した。各調査区において魚種ごとの個体数と密度を推定した。物理環境データとして、各調査区の標高、勾配、流速、水温、川幅、最大水深を測定した。
 調査の結果、絶滅危惧Ⅱ類のオショロコマの密度と種組成の割合は、ダム下流域よりも上流域の方が高いことがわかった。サクラマス群と在来イワナの分布は、ダム下流域の調査区に限られていたが、標高を除き、ダム上流域と下流域の間で生息環境に違いがみられなかった。したがって、このダムに魚道が設置された場合は、在来イワナだけでなく、外来アマゴやその交雑個体が上流域に分布を拡大させ、種間競争を介して上流域のオショロコマの密度や頻度が低下する可能性が考えられる。


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