| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-257 (Poster presentation)
年齢は、野生動物の個体群動態の理解や保全活動を実施する上で基盤となる、重要な情報である。しかし鳥類において、生きた個体の年齢を正確に推定する実用的な方法は未だ開発されていない。絶滅危惧種であるヤンバルクイナ(Hypotaenidia okinawae)においても、年齢情報を得ることの困難さから、年齢に伴う基礎生態情報が不足している。本研究では、血液からヤンバルクイナの年齢を予測するモデルの開発を試みた。年齢既知個体(0.25-15.4歳、n = 47)の血液を採取し、Reduced Representation Bisulfite Sequencing(RRBS)法を用いてゲノムワイドにDNAメチル化解析を行った。年齢とメチル化率に高い相関のあるCpGサイトを抽出し、年齢推定モデルを開発・検証した。モデルの作成にはElasticNetを使用し、サンプルはトレーニング用とテスト用をランダムに7:3で分けた。年齢と相関の高い10 CpGサイトを用いた解析では、モデル検証時の絶対誤差の平均値が1.21歳(デ ータセットの最大年齢の7.85%)であった。また、年齢と特に相関の高いCpGサイトの中には、脂質代謝に関わる遺伝子名が予測されたものもみられた。
ヤンバルクイナの年齢推定の指標となりうる遺伝領域が特定されたことで、保護管理にも貢献できる可能性がある。行動の情報と合わせてロードキルに遭いやすい年齢層の特定につなげたり、生理的な情報と合わせて繁殖計画を立てる際に役立てたりすることができると考えている。羽や糞など非侵襲的に得られるDNAで同様に年齢推定が可能になれば、野生集団の年齢構成を知ることができる。DNAメチル化を指標とした年齢推定は、これまで主に哺乳類で行われてきたが、鳥類で行われた例は未だ少ない。本研究により、今後対象種を拡げて応用できる可能性が示された。