| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-258 (Poster presentation)
従来、クマ類の年齢推定には、歯根部に形成される層を数える方法が主に用いられてきたが、この手法は抜歯が必要であるため個体への侵襲性が高く、また高齢になるほど正確な推定が難しくなるという欠点を有する。近年、DNAメチル化の度合いが加齢に伴い変化するDNA領域があることが報告され、野生動物において年齢推定の指標として用いられ始めている。我々はこれまで、ヒグマにおいて血液DNAのメチル化レベルを指標とした年齢推定法を確立した。本研究では、この手法が他のクマ類においても適用可能であるか検証することを目的とした。研究には、日本国内の動物園で飼育されており、実年齢の判明しているホッキョクグマ(17頭、20検体)、マレーグマ(8頭、10検体)、アジアクロクマ(3頭、3検体)の血液を供試した。血液より抽出したDNAをBisulfite処理した後、ヒグマにおいて年齢とメチル化レベルとの間に高い相関が認められているDNA領域(SLC12A5遺伝子近傍に位置する領域)をPCR法で増幅し、パイロシーケンス法によりメチル化レベルを算出した。この結果、3種全てにおいて、解析対象領域に含まれる4つのメチル化部位全てで年齢とメチル化率との間に高い正の相関が認められた。ヒグマにおいて確立した年齢推定モデルを適用した結果、推定された年齢と実年齢の差の絶対値はホッキョクグマ及びマレーグマでそれぞれ平均2.2年、アジアクロクマでは平均0.7年であり、3種全ての平均は2.1年であった。この値はヒグマにおける推定精度(平均絶対誤差:1.3年)に比べるとやや劣るものの、十分な精度であると言える。これらのことからヒグマにおいて確立した年齢推定モデルが、クマ類に共通して広く適用可能であることが示唆された。