| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-265 (Poster presentation)
佐賀市東よか干潟では、2018年に絶滅危惧種の塩生植物シチメンソウの大規模な立ち枯れ被害が発生した。その後も立ち枯れ被害は発生しているものの、その原因は未解明である。東よか干潟は国内におけるシチメンソウの最大の群生地であり、保全生態学的観点から立ち枯れメカニズムの解明が望まれている。これまでの調査から、シチメンソウの立ち枯れにはいくつかの要因が関与しており、中でも9月下旬から10月にかけて発生する花枝の先枯れを伴う立ち枯れがもっとも深刻な被害を及ぼしていると推察されている。2022年の調査の過程で、シチメンソウ群落において多数のシャクガ幼虫が確認された。これらを飼育して成虫を得たところ、クシヒゲハイイロヒメシャク(以下ヒメシャク)であることが判明した。東よか干潟においてヒメシャク幼虫密度を調査した結果、シチメンソウの立ち枯れが激しい場所で高かった。また、鉢植えおよび自生地のシチメンソウに幼虫を放飼し、袋がけをして経過を観察したところ、立ち枯れ症状の一つである花枝の先枯れが確認された。シチメンソウ上の本種の幼虫には、ピンクや緑、茶や黒などの体色の変異が見られ、枝に擬態する行動が観察された。さらに、室内での海水中への水没実験では、幼虫は24時間以上の水没にも耐えられることが明らかになった。一連の結果より、本種は潮間帯の環境に適応してシチメンソウを寄主としており、花枝の先枯れを伴う立ち枯れ被害に関与していることが示唆された。