| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-266 (Poster presentation)
樹上カメラトラップとは、文字通り、木の上に自動撮影カメラ(以下カメラ)を設置し、林冠の動物を調査する手法である。林冠は調査の困難な空間であるが、この手法により、動物の生息状況や行動を長期間記録することができる。本研究では、屋久島のヤクスギ林の樹上にカメラを設置し、林冠を利用する動物相の特徴を分析した。カメラは2021年6月から2022年10月にかけて、①樹齢1000年以上のヤクスギの樹上(老齢木樹上)、②樹齢300年程度のヤクスギの樹上(若齢木樹上)、および地表に4台ずつ設置した。若齢木は、江戸時代にヤクスギが伐採された後、更新したヤクスギであり、老齢木のデータと比較することで、伐採が哺乳類や鳥類の林冠の利用状況に与える影響を推定できると考えた。樹上のカメラは著者らが単ロープ法で登攀し、高さ約13mから27mに設置した。老齢木の樹上の撮影地点は、着生樹木が高密度で生い茂る幹と枝のつけ根などを選んだ。若齢木の樹上にはそのような場所がなかったため、コケやシダが厚く着生するできるだけ太い枝の根元が映るように設置した。撮影は静止画モードで行った。調査期間中のカメラの平均稼働日数は約360日であった。調査期間全体での平均撮影頻度(/日・カメラ)は、老齢木樹上が0.26(SE=0.09)、若齢木樹上が0.02(SE=0.01)、地表が0.33(SE=0.24)であり、若齢木樹上の値が顕著に低かった。同定できた種の数は、老齢木樹上が14(うち鳥類12)、若齢木樹上が3(2)、地表は6(2)であった。このことから、老齢木の樹上は、鳥類を中心とする多くの動物に利用されており、伐採後に更新したヤクスギは、300年が経過してもなお利用頻度や出現種数に大きな差があると推測された。老齢木の樹上で最も多く撮影された哺乳類はヒメネズミ(0.15/日・カメラ)であった。ネズミ類は地表おいても高頻度(0.22/日・カメラ)で撮影されていたため、種子や節足動物などの垂直分散に寄与している可能性がある。