| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨
ESJ71 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-269  (Poster presentation)

堆積物DNAに基づく海棲哺乳類スナメリの過去100年にわたる長期動態
Long-term dynamics of marine mammal, Finless porpoise, reconstructed from sedimentary DNA

*槻木玲美(松山大学), 中根快(愛媛大学), 土居秀幸(京都大学), 加三千宣(愛媛大学)
*Narumi TSUGEKI(Matsuyama Univ.), Kai NAKANE(Ehime Univ.), Hideyuki DOI(Kyoto Univ.), Michinobu KUWAE(Ehime Univ.)

豊かな海の象徴的な生き物である海棲哺乳類は、1970年代以降、世界各地で大量死が報告され、急速な減少が危惧されている。減少要因として、有力視されているのは食物連鎖を通じて、生物濃縮が起こりやすいポリ塩化ビフェニル(PCBs)などの化学汚染物質が特に懸念されている。瀬戸内海のスナメリは、我が国が誇る海棲哺乳類の一種であるが、他の海域のスナメリや小型の鯨類と比べてもPCBs濃度が1~2桁高い値を示し、最も汚染の脅威にさらされている鯨類の一種である。また温暖化に伴う海水温の上昇が鯨類の繁殖成功率や個体数に影響を与えることも指摘され、温暖化の影響も懸念されている。
スナメリは現在、商業捕獲の禁止など厳戒な保全措置が取られ、日本を含む先進国では化学汚染物質の規制が強化されていることから、スナメリに対する人為的な負荷は軽減している可能性がある。実際、近縁種の中国に生息するヨウスコウスナメリは、一部の地域で個体数の減少傾向が止まっていることが判明した。従って、我が国のスナメリも近年、減少傾向から回復の途上に向かっているのか、減少の一途を辿り絶滅に向かっているのか、現状を長期的視点から捉えるための知見が求められている。しかしながら、これまで海棲哺乳類は調査自体が困難で、長期にわたる観測データは存在せず、実際に汚染物質や温暖化がどのような影響を与えてきたのかよく分かっていない。一方、環境DNAの解析技術の飛躍的な進展により、堆積試料に残る環境DNAから、様々な種の生物相変化を明らかにする技術が大きく進展しつつある。本研究では、環境DNA解析を瀬戸内海(別府湾)の堆積試料に応用し、堆積試料中のDNA濃度変化に基づくスナメリの過去100年にわたる長期動態の復元とその変動要因に関する解析結果を紹介する。


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