| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨
ESJ71 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-271  (Poster presentation)

繁殖地の不安定化・消失が相次ぐ対馬のチョウセンヤマアカガエル
Tsushima's Brown frog(Rana uenoi), whose breeding grounds are becoming unstable or disappearing one after another.

*藤田宏之(埼玉県立 川の博物館), 松尾公則(長崎女子短期大学)
*Hiroyuki FUJITA(Saitama Museum of Rivers), Takanori MATSUO(Nagasaki Women's   Jun. Coll.)

チョウセンヤマアカガエルRana uenoiは国内では対馬のみに分布し,環境省RLでは準絶滅危惧,長崎県RLでは絶滅危惧ⅠB類の希少種である.演者らが2019年3月の生息調査で卵塊が確認された中の4地点を2022年4月,2023年2月にモニタリング調査を実施した.調査項目は卵塊,幼生の目視確認ならびに生息環境の状況確認である.4地点の調査地は放棄後年数を経過した放棄水田2地点,ダム湖上流部の道路沿いの側溝,総面積5ha広い湿地である.なお,調査地はすべて同属のツシマアカガエルも同所的に産卵する.2022年4月の調査結果は,卵塊は全地点で未確認,幼生も全地点で未確認であった.3~4月の少雨の影響により調査地はほぼ落水し,干上がりが深刻な状況であった.その反面2023年2月の調査結果は,全調査地で卵塊を確認し,2022年調査時にみられた干上がりは認められなかった.卵塊はすべて孵化前であり産卵後数日の新しい卵塊もみられた.生息状況の悪化がみられた2022年は,産卵終了後に少雨が長期間におよび,繁殖はほぼ失敗したと推測される.2023年2月調査では産卵が順調だったが,今後産卵終了後少雨による干上がりが懸念され,2022年と同様の事象が繰り返された場合,個体群の維持が困難になる可能性がある.2023年2月は付帯調査として過去の生息情報から1地点を調査した.緩い傾斜の10ha以上はある谷戸田であるが,耕作は8割方放棄され乾燥化が進行していた.結果7卵塊の確認となったが,過去は多くの個体数が生息していたとの情報であり,水田耕作が放棄された後急速に個体数を減らしたと推測される.本種は産卵期が短く,幼生の成長も遅く長期間の少雨は大きなリスクとなる.しかし保全対策の前例はなく,個体群が維持できている間に,産卵後の少雨に対するアフターフォローの実施を提案したい.


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