| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-275 (Poster presentation)
市民対象の国際調査(Miller et al. 2006)から日本は進化の受容の高い国として認知されているが,進化の受容や理解の評価に関する詳細な調査は行われていない.諸外国では,進化の受容や理解を評価する尺度が複数開発されており,これらを利用することで,国際的な比較が可能となる.
日本の高校における生物教育は近年,進化重視の方向に舵をきっている.これらのカリキュラム改革の効果を検討するためには,現状評価として,高校生物の履修を終えた大学生の進化受容や理解を調査することが必要である.
そこで本研究では,国際的に利用されている進化の受容と理解の尺度の翻訳版(それぞれ2種類)を用いた大学1年生対象の調査を行った.進化の受容については, MATE(Rutledge & Warden 1999)およびGAENE(Smith et al. 2016)を,進化の理解については自然選択に焦点化し,CINS(Anderson et al. 2002)およびCANS(Kalinowski et al. 2016)を利用した.調査は2023年5~12月に,生物系科目を担当する大学教員に依頼して,WEB形式で行った.
MATEとCINSを利用した調査1では10大学の学生計447名から,GAENEとCANSを利用した調査2では8大学の学生計462名から回答を得た.「生物」履修の効果を評価するために,「生物基礎」のみを履修した学生と「生物」も履修した学生の比較を行った.その結果,進化の受容については履修の効果はほとんど見られなかったが,進化の理解については,いくつかの項目において履修の効果が見られた.さらに,他国の大学生対象の調査結果と比較してみると,両調査に共通して,進化の受容は同程度であったものの,進化の理解は低かった.項目別の分析から,「生物」を履修した学生であっても,生物自身の必要性に基づく進化や用不用説・獲得形質の遺伝などの誤概念を保有していること,個体群の成長や密度効果などの生態学的な基礎知識の習得に課題があることが示唆された.