| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-286 (Poster presentation)
近年、生物の代替生息場としての都市緑地の機能に注目が集まっている中で、野生送粉昆虫の保全を目的に都市緑地に採餌場を創出するポリネーターガーデンが海外を中心に実践的に試みられている。本研究では、都市緑地においてポリネーターガーデンに期待される役割や有効性を検証するために、東京都心域の代表的な都市緑地である皇居吹上御苑・皇居東御苑、および国立科学博物館附属自然教育園での調査を宮内庁庭園課の協力の元に、国立科学博物館総合研究の一環として実施した。都市緑地の客観的な評価に適する花粉媒介者として、①虫媒花だけでなく風媒花まで訪花するジェネラリスト訪花者、②都市域での分布、③高い移動性、④粘着トラップによる採集の容易さ、という性質を持つハナアブ類を採用し、トラップにより採集した。ハナアブ個体(皇居、2021-2022年の10月:合計194個体、自然教育園、2022-2023年の10月:合計140個体)に対して、体表付着花粉の種同定をITS領域のDNA Barcodingにより行った。
採集したハナアブ類の種組成をNMDSにより解析した結果、皇居域では吹上御苑と皇居東御苑で種組成が変化し、自然教育園では樹木密度等に応じて種組成が変化した。両サイトともに空間的な開放度が種組成に影響していた。花粉輸送ネットワークは、皇居域においては合計118種の花粉種から構成され、セイタカアワダチソウおよびツルドクダミの外来種がネットワーク中で優占していた。自然教育園においては、合計73種の花粉種から構成され、皇居域と同様にセイタカアワダチソウが優占していたが、皇居域とは異なりイヌショウマやタイアザミの在来種もネットワーク中で優占していた。
空間的変化に対する応答が見られること、セイタカアワダチソウによる優占が検出できたことから、都市でも確認できる汎存種かつジェネラリスト種であるハナアブ類が都市域での花粉輸送の観点から生態系管理への指標として利用できる可能性が示唆された。