| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-291 (Poster presentation)
日本の半自然草原は、現在、主に火入れ、放牧、採草により維持されているが、こうした人為的管理の停止や低下による植生変化が生じ、その草原景観の保全のあり方が課題となっている地域もある。本州中部の八ヶ岳・中信高原国定公園に含まれる霧ヶ峰高原には、本州最大級の半自然草原が広がっているが、採草利用・火入れの停止にともない低木林化が進行してきたことから、採草や侵入樹木の伐採による草原再生事業が実施されている。一方、霧ヶ峰高原では、近年、ニホンジカが増加し、草原生植物、特に観光資源ともなっているニッコウキスゲへの採食圧も増加したために、草原内に大規模防鹿柵の設置もすすめられている。
この霧ヶ峰高原において、2023年5月4日から5日にかけて大規模林野火災が発生した(焼失面積:166ha・焼失範囲の標高は約1600〜1900m)。焼失範囲には、半自然草原が卓越しており、また防鹿柵が設置されている範囲も含まれていたことから、半自然草原の植生管理およびニホンジカの採食影響との関係を含めた草原の生物多様性保全に及ぼす林野火災の影響を把握するため、火災当年の植生および訪花昆虫相を調査した。調査は、焼失範囲と防鹿柵の内外に50mのライントランセクトを各1本、計4本設置し、2023年6月と8月に開花植物の花数及び種数、マルハナバチ及びチョウ類の種数と個体数をカウントした。また、木本への火災影響が大きいことが予想されたことから、焼失範囲内外で半自然草原に侵入しているレンゲツツジの開花期にドローン空撮を実施した。
火災の発生が植物の展葉期直前だったこともあり、植生が消失した範囲は生じず、火災後に植被は回復した。ただし、焼失範囲内ではレンゲツツジでは開花が見られないなど、木本植物と草本植物で焼損状況の違いが大きく、回復した植被は草本植物が主体となっていた。回復した植生では、焼失範囲内外の開花及び種数の違いよりも防鹿柵内外の違いが著しかった。