| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨
ESJ71 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-297  (Poster presentation)

気候と生物多様性の目標同時達成のためのmanaged relocation:統合評価モデルでの検討
Managed relocation as a responce option for achieving climate and biodiversity targets: Insights from an integrated assessment model

*土屋一彬(国立環境研究所), 大橋春香(森林総合研究所), 平田晶子(森林総合研究所), 長谷川知子(立命館大学), WUWenchao(国際農研), 藤森真一郎(京都大学), 松井哲哉(森林総合研究所), 高倉潤也(国立環境研究所), 高橋潔(国立環境研究所)
*Kazuaki TSUCHIYA(NIES), Haruka OHASHI(FFPRI), Akiko HIRATA(FFPRI), Tomoko HASEGAWA(Ritsumeikan Univ.), Wenchao WU(JIRCAS), Shinichiro FUJIMORI(Kyoto Univ.), Tetsuya MATSUI(FFPRI), Jun'ya TAKAKURA(NIES), Kiyoshi TAKAHASHI(NIES)

気候変動は世界における生物多様性喪失の主要なドライバーのひとつであり、温室効果ガスの排出削減などの気候変動の緩和策を推進することは生物多様性保全のために重要である。一方で、いわゆる2度目標などの国際的合意が達成されるだけでは生物多様性の喪失傾向を回復傾向に転じさせることは困難であることも明らかになりつつある。本研究は、気候目標達成時でも生じてしまう気候変動影響下において、従来の生息地とは異なる場所に気候からみた生息適地が生じうる点に着目し、managed relocation(あるいはassisted migration、人為的な生物の移動)が生物多様性の国際的目標を達成するために果たしうる役割を明らかにすることを目的とした。研究手法としては、統合評価モデルを用いて、2度目標相当の緩和策が実施された場合の世界および地域レベルでの生物生息地の2090年までの変化をmanaged relocationの実施の有無で比較した。分析には統合評価モデル枠組みAIMを構成する経済モデルAIM/Hub、土地利用配置モデルAIM/PLUM、種分布モデルAIM/BIOと、結合モデル相互比較プロジェクトCMIP6にもとづく気候シナリオデータを用いた。AIM/BIOは、土地利用と気候をドライバーとして鳥類、哺乳類、爬虫類、両生類、植物の種の分布適地を推定するモデルである。分析の結果、managed relocationを推進した場合に、世界全体での生物生息地の広がりを示す指数が改善することが明らかになった。地域レベルでみると、こうした改善効果は高緯度地域で特に顕著にみられた。これらの結果は、気候と生物多様性の国際的目標を同時に達成するために、地域によってはmanaged relocationが一定の役割を果たす可能性があることを示唆していた。他方で、managed relocationだけでは生物生息地の喪失を完全に補うことが難しいことも明らかとなり、世界の生物多様性を回復傾向に転じさせるためには、さらなる対策を組み合わせる必要性があると考えられた。


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