| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-301 (Poster presentation)
ホロスポラ科細菌に代表的なHolospora属細菌はゾウリムシなどの繊毛虫から見つかり、宿主細胞の核や細胞質に生息していることが知られている。これらの細菌は宿主繊毛虫の温度耐性や成長速度の向上、細胞の酸化損傷緩和などを通じて宿主の適応度に貢献しているという。しかし、Holospora属および近縁細菌は繊毛虫以外からの報告はない。一方、ホロスポラ科には、例えばエビ類に致死作用を及ぼす病原となるHepatobacter属細菌のような種も含まれる。Ichige et al. (2023: Microb Ecol 86:2097-)によると、Daphnia cf. pulex sensu Hebert (和名:ミジンコ,以下D. pulex)の2つの遺伝系統JPN1およびJPN2の共在細菌叢を調べたところ、未記載のホロスポラ科細菌がJPN2系統の遺伝子型のみと共在している事が明らかとなった。しかし、このホロスポラ様細菌が、ゾウリムシ類と同様に細胞に生息しているか否かは不明である。
そこで本研究ではD. pulex JPN2系統の遺伝子型特有のホロスポラ様細菌種が、宿主細胞内にどのように分布しているか明らかにすることを目的とし、各種観察を行った。観察にあたっては、まずホロスポラ様細菌の16S rRNA配列決定を行い、それを元にホロスポラ特異的プライマーを設計した。JPN2系統を含むD. pulex 15系統の親個体、急発卵、休眠卵、休眠卵鞘から細菌DNAを抽出してPCRを行い、電気泳動によりホロスポラ様細菌がJPN2系統特異的に出現する事を明らかにした。また、本プライマーに基づきFluorescent in situ hybridization (FISH)プローブを作成してFISHを行い蛍光顕微鏡による観察を行った。本発表では得られた結果に基づき、ホロスポラ様細菌の宿主内の所在と適応的意義の可能性について考察する。