| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-302 (Poster presentation)
真菌類では形態形質と生態形質の進化的関係についてほとんどわかっていない.植物絶対寄生菌であるウドンコカビでは,有性生殖器官である裂子嚢殻の付属糸形態が宿主上での越冬戦略において重要な機能を有していると考えられている.先行研究により,ウドンコカビでは落葉樹上の複雑付属糸から草本・常緑樹上の単純付属糸へ複数回収斂進化していることが示唆された.しかし,解析に用いた種数が限られており,宿主タイプと付属糸形態の進化的依存関係については未解決であった.本研究ではこれらの形質間の進化的関係を明らかにすることを目的とし,ウドンコカビの中でも最大かつ最も多様な分類群であるErysipheaeを対象に系統比較法(Phylogenetic Comparative Methods, PCMs)による状態遷移,祖先状態,進化的依存関係,進化順序に関する解析を行った.結果,落葉樹タイプと複雑付属糸が最も祖先的で,これらの状態から草本・常緑樹タイプと単純付属糸への収斂進化が複数回起こっていることが示された.また,ウドンコカビにおいて初めて宿主タイプと付属糸形態の進化的依存関係が検出された.これは,植物寄生菌における宿主のフェノロジーと菌の形態形質の進化的依存関係を示した数少ない例である.進化順序解析により,草本・常緑樹上で付属糸の単純化,落葉樹上で付属糸の複雑化が起こりやすいことが示された.これらの状態遷移については各付属糸の越冬戦略における機能的利点から説明可能であり,解析した宿主タイプと付属糸形態の組み合わせの約9割がこの観点から解釈できた.一方,付属糸の機能的利点からは一見非合理的な状態遷移もみられたが,これらは越冬戦略の柔軟性や付属糸機能の定量化から説明できるかもしれない.本研究により,ウドンコカビは植物寄生菌の表現形質と感染戦略の進化的関係を解明していく上で注目すべき菌群であることが示された.