| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨
ESJ71 Abstract


一般講演(ポスター発表) PH-22  (Poster presentation)

アリグモの雄における大型化した鋏角のメリットとデメリット【A】【O】
Advantages and disadvantages of long jaw in male Ant-mimicking spiders【A】【O】

*小林陽(芝高校)
*yo KOBAYASHI(Shiba high school)

ハエトリグモ科アリグモ属の雄は、雄同士の闘争行動において大型化した上顎を利用する。上顎を横に開いて見せ合った時の大きさで勝敗が決まると考えられるが、上あごの巨大化はアリ擬態効果の減少、捕食効率の低下(捕食時に邪魔になる)を引き起こす可能性がある。本研究では、アリグモ科の雄の巨大な上顎が有するメリットとデメリットを解明し、上顎が生存上でどのように機能しているのかをアリ擬態との関連性を加味して検証した。実験は、上あごのメリットとして雄アリグモの闘争行動における勝率と上顎サイズの関連性を調べた。デメリットとしては、2つの実験を行った。1つめは擬態効果の減少として、アリグモの雄と雌(雌の上顎は他のハエトリグモ類と同程度)、別属のハエトリグモ、クロヤマアリが天敵(本実験ではニホンヤモリを採用)から受ける捕食率の違いを、2つめは捕食効率の低下(上顎を開くのに時間がかかる)として、単位時間あたりのショウジョウバエの捕食数を雄と雌で比較した。メリットの検証では、闘争行動の勝敗は上顎サイズの大きい雄の勝率が高い傾向がみられた。デメリットの検証では、アリグモの雌の単位時間あたりのショウジョウバエの捕食数が雄よりも多くなることが分かった。また、ヤモリからの被捕食実験では、ハエトリグモ(アリグモ科以外)は必ず捕食され、クロヤマアリは必ず捕食されないことに加えて、アリグモはオスとメスに関わらず、捕食するヤモリによって被捕食率が変わることが分かった。以上の実験から、オスアリグモの持つ巨大な上顎には、サイズが大きいほど闘争行動において有利になるというメリットと、上顎があることにより単位時間あたりの捕食数が少なくなるというデメリットがあることが分かった。また、ヤモリからの被捕食実験においては、アリグモに対するヤモリの捕食行動はそのヤモリの個体によって捕食されるかされないかが決まることが示唆された。


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