| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PH-29 (Poster presentation)
淡水エビには、触角の上に額角と呼ばれる突起が存在する。この額角には、触角側と反対側にそれぞれ歯と呼ばれる鋸歯状の突起が存在する。触角側の突起を額角下縁歯、反対側のものを額角上縁歯と呼ぶ。また、額角上縁歯に連続している歯のうち、眼窩より体側にあるものを頭胸甲上歯として区別する。額角上縁歯と頭胸甲上歯の個数の合計を額角下縁歯の個数で割った値は額角歯式と呼ばれ、種同定などに用いられる。
この研究では、侵略的外来種シナヌマエビNeocaridina davidiについて、額角の鋸歯状の突起である額角歯について調べ、東京都内の各採集地で採集した個体における額角歯式と額角歯の総数をまとめた。都内の採集地には、武蔵学園構内を流れており、1980年代以降他の水系と隔絶されている濯川と、既にシナヌマエビの定着が確認されている多摩川およびその支流の3地点を選定した。
計測の結果得られたデータの母集団が正規分布に従うか否か、有意水準5%で適合度検定を行ったところ、採集地のうち、濯川および多摩川の1地点の計2地点で、母集団の個体ごとの額角歯の総数及び額角歯式が正規分布に従うとわかった。
そして、2地点のデータを用いて、額角歯の総数と額角歯式の母集団の平均の差の検定を行ったところ、濯川に生息するシナヌマエビと、多摩川に生息するシナヌマエビには、額角歯式の平均について有意水準5%で有意な差がみられることを明らかにできた。なお、額角歯の総数については、有意水準5%で平均に有意な差があるとは言えなかった。
このように、検定の結果、濯川と多摩川のシナヌマエビの額角歯の総数には有意な差が見られるとは言えないが、額角歯式には有意な差がみられるとわかった。このことから、濯川に侵入したシナヌマエビと多摩川に侵入したシナヌマエビは同種の中でも別の形態を持つ集団である可能性を指摘できる。