| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PH-30 (Poster presentation)
近年、温度依存性決定を行う生物に対する温暖化の影響が危惧されている。ウミガメでは卵発生時の温度が高いほどメス個体が孵化する率が高まる。オーストラリアのグレートバリアリーフ北部由来のアオウミガメでは幼体の99%をメスが占めることが報告されるなど、温暖化がオス不足をもたらしウミガメ個体群の存続を危うくする可能性が指摘されている。一方で、メスよりオスのほうが回帰年数(産卵期から次の産卵期までの年数)は短く、またオスが複数のメスに授精する可能性を考えると、一次性比のメスへの偏りは深刻でないとする見方もある。また、ウミガメの孵化成功率は巣内温度の上昇により低下することも知られており、温暖化が孵化成功率を低下させウミガメ個体群に悪影響をもたらす可能性もある。そこで本研究では、北太平洋のアカウミガメ個体群を対象に、巣内温度が一次性比と孵化成功率の変化を通じて個体群存続にもたらす影響を、個体群行列モデルを用いて解析した。その際、雌雄の回帰年数の違いやオス1個体あたりの授精可能メス数を考慮した解析を行った。
一次性比の偏りが及ぼす影響を評価するため、本研究で用いる行列モデルには雌雄の個体群構造を個別に追跡する両性モデルを採用し、婚姻数は交配に参加するメス数あるいは交配に参加するオスの総授精可能メス数の少ないほうが制限するものとした。個体群のステージ構造は卵・孵化幼体、外洋幼体、沿岸幼体、成体からなる。生活史パラメータは、既存の文献情報をもとに定め、生存率に雌雄差はないものと仮定した。パラメータの不確実性を考慮するため、既存文献の情報をもとに定めたパラメータ範囲からランダムに抽出した値を用いたシミュレーションを多数回行った。発表では、巣内温度上昇に対する個体群成長率の変化、および巣内温度と生活史パラメータに対する個体群成長率の応答を調べたモデル解析の結果を報告する。