| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PH-32 (Poster presentation)
1922年創立の旧制武蔵高等学校を前身とする武蔵高等学校中学校(東京都練馬区)には、創立期に集められた動植物標本が保管されている。現在、石神井・三宝池周辺(今の石神井公園周辺)の液浸標本の整理を行なっており、その過程で見つかった標本について報告する。コバンムシIlyocoris cimicoides(1934年5月採集)1個体、コガタノゲンゴロウCybister tripunctatus(1928年1月27日採集)が60個体ほど入った三宝寺池産の数種類の水生昆虫のほか、ヒメタヌキモUtricularia minor(1924年10月5日採集)などが確認された。コバンムシは、現在日本全体でも減少しており、環境省レッドリスト2020では絶滅危惧IB類、特定第二種国内希少野生動植物種にも指定されている。東京都レッドデータブック2023では絶滅種で、本種は平地から丘陵地の水草の豊富な比較的大きな池沼を好むことから、局地的な分布だったの可能性がある。都内産の標本も数えるほどしかなく、本標本は希少なものといえる。コガタノゲンゴロウは環境省レッドリスト2020で絶滅危惧Ⅱ類に指定されているが近年確認例が増えており、2022年に神奈川県でも再発見され、いずれ東京都での確認も期待される(東京都RDB,2023)。この標本は戦前の東京から姿を消す前に採集された個体といえる。この標本を調べたところ、体長は26mmの個体が最も多く、オスとメスの個体数の比はおおむね1:2となった。また、1月の三宝寺池で60個体ものコガタノゲンゴロウが採集された理由として、國本(2005)によれば、本種は水温4℃以下での越冬は不可能とのことで、当時の三宝寺池は湧水が出ていて冬でも凍らなかったため、越冬を目的として近隣に生息するコガタノゲンゴロウが集まってきた可能性が考えられる。