| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PH-38 (Poster presentation)
クロモジは、クスノキ科クロモジ属の芳香樹であり、古くから楊枝や民間薬用酒などに利用されてきた。クロモジ属にはクロモジ、オオバクロモジ、ヒメクロモジ、ケクロモジ、ウスゲクロモジと、クロモジの名の付く種が5種ある。これらの種は大変似通っており、分類方法も文献によって異なる。さらに、私たちが作成した芳香蒸留水の香りも種によって異なっていたことから、兵庫県にすべて分布しているクロモジ類5種の関係を明らかにすることにした。分子系統解析に加え、蒸留、水蒸気蒸留、減圧蒸留で芳香蒸留水と精油を抽出し、紫外吸収スペクトルの測定を行った。
葉緑体DNA trnL-F、psbA-trnH領域、核DNA ITS領域でクロモジ類5種は、他のクロモジ属と大きく分かれるだけでなく、ケクロモジ、ウスゲクロモジが他のクロモジ類3種と分かれ2つに分岐した。前者2種は中国やアジアに分布するリンデラ・リフレクサと塩基配列がほとんど一致した。クロモジ類5種は実験した3領域で遺伝子の違いが大変少ない。まず、ケクロモジが比較的最近に中国から入ってきたのかもしれない。分布を広げる過程でウスゲクロモジが分化し、さらに日本全体へと分布を広げる途中で、残りの3種も進化してきたのかもしれないと想像している。
紫外吸収スペクトルを測定した結果、クロモジ類5種は208nmに大きなピークを持つ点で他のクロモジ属と異なっている。また、238nmにはなだらかで大きなピークを持つことが分かった。香りの観点からもクロモジ類5種は近縁であり、他のクロモジ属種と区別できる。
今後、ガスクロマトグラフ質量分析(GC-MS)を用いて生育地による違い、季節変動や作成方法による違いや、紫外吸収スペクトルにおける208と236nm付近の物質を明らかにしたい。また、次世代シーケンサーによるMIG-seq分析を行い、より詳しい分子系統解析を行いたいと考えている。