| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PH-39 (Poster presentation)
私たちが注目したスミレ属ミヤマスミレ類はスミレ属の中でも特に形態が似た種で, 38種と多く,さらに時期によって葉の形態が変わるという特徴を持ち,分類が複雑になっている。先輩の葉緑体DNAの系統樹からこの類は3つに分かれることが示された。類内の種とは異なる葉緑体DNAを持つコミヤマスミレとマルバスミレ,山間部に生育する種,人里に生育する種の3つである。これらの系統関係に着目してミヤマスミレ類の形態分類を見直すことを目的に研究を行った。また,コミヤマスミレとマルバスミレが他類であるツクシスミレと葉緑体DNAで似た塩基配列を持っており,それはなぜなのかも探ることにした。
特に形態の似た花期の人里の種の葉4か所で主成分分析を行い、有意差があるか見た。自分たちで葉からDNAを抽出し,PCR法で増幅し,核DNA2領域で系統樹を作成し系統関係を見た。また,ツクシスミレとコミヤマスミレ,マルバスミレの3種がどのように分布を拡大してきたのか探るため、MaxEntで過去の分布適地を調べる生態ニッチモデリングを行った。
核DNAの分析から山間部に生育する種はさらに深山系と里山系に分れた。コミヤマスミレは他と明確に区別され,山間部に生育する種でも深山系はすでに種分化した近縁な系統で,里山系はまだ種分化途中の系統,人里に生育する種は最近に種分化した近縁な系統であるとわかった。
また,生態ニッチモデリングの結果より,コミヤマスミレ,マルバスミレはツクシスミレと最終氷期最盛期に分布適地の重なりがあり,その際に雑種を作り,ツクシスミレの葉緑体DNAが移行して浸透性交雑を起こした可能性が示唆される。
系統樹の信頼度を上げるため,より多くのサンプルを分析したい。さらに葉緑体全ゲノム解析で種間関係をより明確にし,種の保全につなげていきたいと考えている。