| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PH-40 (Poster presentation)
1.研究背景
ナガレヒキガエルは渓流域に産卵する両生類無尾目の一種であり、幼生期には吸盤状の口器を持つことで知られている。本種の幼生を観察していると、多くの個体が流れに逆らって上流方向に頭を向ける定位行動をとっていた。川の流れが幼生の定位に関連するのではないかと仮説した。よって本研究では河川流と個体数分布の関連性について検討するため、コドラート法と浮子法による解析を行った。
2.研究材料と方法
本種が産卵する21m×12mの範囲を調査区域とした。調査区域内の個体数分布を分析するため、塩ビパイプで作製した正方形の枠を用いてコドラート法による調査を行った。調査区域を碁板目状に区切り、48地点において、計数を行い、個体数の密度分布図を作成した。
28地点で浮子を流して撮影を行った。浮子を流し、1秒毎の浮子の位置について確認し流速について確認した。
16地点で個体採集を行った。個体を 10〜20 個体採集し、発生段階を調べた。
3.結果
最高密度地点には一平方メートルあたり352個体が生息していた。高密度地点は流れの流心線上ではなく、流心線付近に分布していた。流心線付近では流速は5.0〜7.4cm/sを示し、最高密度地点では1.7cm/sを示した。幼生の発生段階について見てみると、最高密度地点では調査区域内で最も発生が進んでいた。流心線付近の流れが速い地点は最高密度地点に比べ広がって定位しており、流れが緩やかな地点は発生が進んだ個体が密集して定位していることが分かった。
考察
流れが弱い地点ではナガレヒキガエルの幼生は、ヤゴなどの遊泳能力の高くない外敵からの被食のリスクが高くなると考えられる。変態が進めば、吸盤上の口器の形状が変化し後肢が出現する。これに伴って、流れが弱く堆積物の多い地点へ移動せざるをえなくなるが、個体群密度を上昇させることで被食を回避していると考えられた。