| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PH-46 (Poster presentation)
本研究では、テナガエビの嗅覚の強さやどのような化学物質や匂い物質に対して敏感に反応するか、以下の3つの実験を通して、テナガエビを利用した水中での能動的な化学サンプリング行動の解明を目指した。1つめの嗅覚実験ではY字形水槽の分岐の一方に市販餌を設置し、化学物質(酸味・塩味・うま味・甘味)に対してテナガエビの反応が誘引または忌避のいずれであるか確認をした。結果として、テナガエビは旨味成分に強い誘引反応を示し、逆に酸味に対しては強い忌避反応を示した。これは、自然環境下での餌である魚死骸や水棲生物に旨味成分が含まれているからだろう。また、塩味や酸味に対する強い忌避反応は、採集地・飼育環境と著しく異なる塩分濃度やpHの急激な変化の影響であると推定される。2つめの記憶能力および学習能力の実験では、水槽内に迷路を作製し最終地点に市販餌を配置し、繰り返し実験を行うことで、最終地点までの到達時間と最終到達地点からテナガエビの記憶能力および学習能力を評価した。何度実験を重ねてもテナガエビの最終地点到達までの時間は短縮せず、記憶能力および学習能力は確認できなかった。3つめの動体検知反応の実験では、テナガエビ正面から吊り下げた寒天を水槽内で2往復させた。忌避や誘引、無反応のうちいずれの反応性を示すか確認した。テナガエビは寒天に対し誘引反応を全く示さず、明確に忌避反応を示した。このことからテナガエビは寒天を捕食者として認識している可能性が示唆された。寒天のサイズが大きくなるほどテナガエビの忌避反応は強くなり、大きな寒天を身体の大きな天敵として認識していると推定できる。一方で、小さな寒天に対して忌避反応をほとんど示さなかったことから、ある程度の大きさがないと捕食者とは認識しない可能性がある。全ての色の寒天に忌避反応を示していることから、テナガエビの視覚は明暗度に関係していると推定できる。