| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PH-50 (Poster presentation)
ジョロウグモはクモ目ジョロウグモ科に属し,オスは体長6~13mm,メスは17~30mmで約2倍の差がある。野外に生息するジョロウグモについては,食餌量と成長・体長・産卵数・卵重に正のフィードバックがはたらくことが報告されている(Miyashita 1986, Miyashita 1991, Miyashita 1992)。また,宮下(1996)は「自然状態での造網性クモにおいては,種間競争が重要な場合はごく少ないといえる。これは,種内競争でさえ普遍的ではないことを考えれば,むしろ当然かもしれない。競争があまりみられない直接的な理由は,クモ類の密度が競争が生じるよりも低いレベルに抑えられているからである。」と記載している。そこで私たちは,ジョロウグモが高密度で生息している環境があれば,「ジョロウグモには種内競争は起きるのか」,「種内競争が起きるならばどのようなことが生じるのか」を明らかにできると考えた。
錦江湾高校の理科棟(4階建て)の外廊下に生息していたジョロウグモの個体密度は0.22~0.35個体/m2であり,森林の密度0.07個体/m2と比較すると,約3.1~5.0倍も高密度であった。また,理科棟ではほぼ平面上に巣を張ること,各階の天井までの高さは3.2mしかないことから,個体密度の違い以上に理科棟のジョロウグモは高密度であると考えられた。各階では1階・2階,場所ごとでは北側と外廊下天井で個体密度が高いことが分かり,種内競争が起きている可能性が高いと考えられた。そこで,1週間後に再調査を行い,個体数や個体サイズの推移を分析した。その結果,メスでは1階・2階の北側と外廊下天井で個体数が大幅に減少しており,その主な要因がメス同士の共食いであることが確認できた。
以上のことから,建物では森林よりもジョロウグモが高密度で生息しており,さらに各階の高さや巣を張る場所の制限により高密度な状況を招いていた。これにより,巣の場所をめぐる争いや,共食いが起きて個体数が減少するといった種内競争が起きていることが本研究で明らかになった。