| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨
ESJ71 Abstract


一般講演(ポスター発表) PH-55  (Poster presentation)

カタツムリの再生能力と再生の定量化【A】
Snail's regenerative ability and quantification of regeneration【A】

*吾妻真希(角川ドワンゴ/研究部)
*Maki AZUMA(KdEi, Academic Research Club)

 「カタツムリの再生能力と再生の定量化」の研究の目的は、カタツムリの再生能力向上法・再生メカニズムの解明、再生モデル生物としてのカタツムリの有用性の提示である。カタツムリは高い再生能力を持ち、殻、腹足、触覚などを再生できる。本研究では以下の仮説を立てた。①スポーツドリンク摂取により再生能力は向上する(スポーツドリンクによる効率的なグルコース吸収により細胞増殖が活発になる可能性がある)、②NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)の摂取により再生能力は向上する(マウスにNSAIDsを投与すると軸索の再生が促進されることが報告された)、③振動により再生能力は向上する(超音波骨折治療法は骨折の治癒を速めることから、振動が細胞増殖を促す可能性がある)。現在検証中の仮説①について、ミスジマイマイの腹足後方を切断し、切断後に通常の4倍希釈のスポーツドリンクを与えた個体と対照個体の再生の様子を観察した。実験個体の腹足再生期間は、スポーツドリンク摂取個体が切断から103日後、対照個体は切断から108日後で、4倍希釈スポーツドリンクによる影響を受けた可能性はほとんどないと考えられる。今後はカタツムリの体液濃度と等張のスポーツドリンクを与え、より効率的なグルコース吸収を促し再生能力の向上を目指す。
 今後検証を予定している仮説②、仮説③を含め、再生の的確な定量化が不可欠である。体重変化は僅かな上、軟体動物特有の柔軟な腹足構造から見た目の変化や面積計測では定量化が困難である。カタツムリの再生を定量化する手法として再生された組織と元の組織を区別することを考え、クリスタルバイオレットを用いた生体カタツムリの軟体部組織の染色に成功した。今後は安全に濃く長く組織染色が維持できる染色法を模索する。組織染色の成功により、再生を定量化できるだけでなく、染色された組織の移動から細胞増殖の様子を可視化し再生のメカニズムを予測できると期待される。


日本生態学会