| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
シンポジウム S18-2 (Presentation in Symposium)
ドローンとラジコンボートを用いた、沿岸域を流れる河川水の流速と水塊特性(水温・塩分・クロロフィルなど)の立体構造を観測する手法を紹介する。沿岸域では河川水を通じてさまざまな物質が陸域からもたらされ、沿岸域の塩分が大きく低下すると同時に、河口と海の間に密度差が生じている。また干潟やラグーンでは地形と潮汐が複雑に作用しながら、河口と海の間で活発な水の交換が起きている。沿岸域の生態系において、河川水が果たす役割は大きいと考えられているが、流れが時々刻々と変化しているなかで、海洋生物が河川水をどのように利用しているのかを理解するには、沿岸域における河川水の輸送経路とそのメカニズムを把握する必要がある。そこで我々は海色が大きく変化する河川フロントと呼ばれる河川水と海水の境界線付近に着目し、ドローンがもつ空間把握能力とラジコンボートがもつ海中観測能力を組み合わせたリモート観測手法の開発に取り組んでいる。泡が集積しやすい河川フロントは、海色画像からその位置を特定することが可能であり、ドローンによる連続空撮から海面の流速場が推定できる。またラジコンボートでは、ドローンの直下を曳航観測することで水温・塩分・クロロフィル濃度・流れ場の詳細な鉛直断面が取得できる。両観測結果を統合することで、沿岸域に広がる河川水の空間分布を、立体的かつ高解像度で把握できるようになってきたのである。観測結果から、河川フロントが1mにも満たない厚みしかない薄いカーテンのような構造を持ち、ラグーン内に幾重にも存在していることが見えてきた。またフロント上では、海面近くで渦が数分ほどの間に発生と消滅を繰り返す様子が捉えられており、これらの渦を通じて河川水が徐々に希釈されていることを示唆している。