| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨
ESJ71 Abstract


シンポジウム S18-4  (Presentation in Symposium)

山岳地域におけるドローンラジオテレメトリー法の開発:ニホンヒキガエルを事例として【O】
Development and applicability of drone-based radiotelemetry for tracking small animals in mountainous terrain: A case study on Japanese common toads【O】

*倭千晶(京都大学), 田中智一朗(田中三次郎商店), 市川光太郎(京都大学), 佐藤拓哉(京都大学)
*Chiaki YAMATO(Kyoto Univ.), Tomoichiro TANAKA(Tanaka Sanjiro Co.,Ltd.), Kotaro ICHIKAWA(Kyoto Univ.), Takuya SATO(Kyoto Univ.)

山岳地域では比較的細かい時空間スケールで環境勾配が生じるため、ここに暮らす動物は、時空間的に多様な生息地利用戦略を示す可能性がある。しかしながら、従来のラジオテレメトリーでは、電波受信機を持った人が現地を歩いて発信機由来の電波を探すため、山の小動物の生息地利用を十分に定量評価できなかった。そこで、本研究ではドローンに電波受信機を載せ、電波発信機を装着した動物の位置を空から推定する方法の開発に取り組んだ。
対象生物は、移動生態に関する基礎的知見が不足している両生類成体とした。京都大学和歌山研究林において、約0.56 gの電波発信機を装着したニホンヒキガエル4個体(139-254 g)を放した。その後1ヶ月毎に3か月間、計36個の飛行経路に沿ってドローンを飛ばした。各経路は約20分間で150 m×200 mの範囲をカバーした。山の動物の隠れ場所から発された電波は、植生などにより減衰するため、特に遠くから受信しにくい。このため、ドローンを二通りの方向に飛行させ、受信に不利な状況で動物の近くを通過する確率を低くした。
全ての個体は、放してから1-60日の間に見つかり、最大で1.7 km移動した。個体が飛行範囲内にいる場合、89.7 ± 14.4 %の確率で電波を受信し、22.4 ± 21.0 m(n=48)の精度で位置を推定した。ヒキガエルが地中20 cm深く、岩の下、樹洞の35 cm奥にいる場合にも位置を推定できた。なお本研究では、ドローンにより位置推定した場合、約30分以内に従来の現地踏査による方法で個体を再捕獲できた。
本手法は山岳地域の小動物に広く適用可能であり、複数個体の位置を同時に推定できる。これは将来的に個体・個体群・また群集の時空間分布を評価し得る基盤技術であり、例えば生物群集のニッチの分化・重複を評価することなどにより、山岳地域において生物多様性が維持される仕組みの解明に役立つ可能性がある。


日本生態学会