| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
自由集会 W08-1 (Workshop)
メスだけで繁殖を完結させる単為生殖は、増殖速度や繁殖成功の観点から有性生殖よりも有利である一方で、有害遺伝子の蓄積や進化速度の減少を避けられないために進化的には不安定であると説明される。ただし、ごく少数ではあるものの、いくつかの単為生殖系統が数百万年ほどの歴史を持つことが推定されている。これらの存在を説明することは容易ではないが、理論的には単為生殖の欠点は稀な有性生殖によって補償されうること指摘されてもいる。多くの単為生殖系統では「稀に出現するオス」が報告されており、しばしばオスとしての機能を維持している。さらに近年の集団遺伝学的研究では、遺伝子流動の痕跡が検出されており、稀なオスが集団間・集団中の隠れた遺伝子流動に貢献した可能性が強く示されている。したがって単為生殖系統の存続を議論する際、稀な有性生殖イベントがありうるかどうかを考慮する必要があるだろう。
我々は、単為生殖種ナナフシモドキRamulus mikadoにおいて、有性生殖の可能性を丹念に調べた。出現率は極めて低い(野外において数千メス中に一オス程度)が、本種ではしばしばオスの出現が報告される。我々は幸運にも、本種の稀なオスの機能性について検証する機会を得た。交尾行動と外部形態の観察から、本種オスはナナフシ類に典型的な形態を示すこと、かつ同種メスと積極的に交尾を行うことが確かめられた。しかし、遺伝子型解析から、オスの対立遺伝子が次世代に全く受け継がれていないことが判明した。さらに、解剖できたオスたちは精子形成ができない状態であることも明らかになった。以上の結果は、本種における単為生殖が進化的に不可逆なものであることを強く示唆している。本報告は、単為生殖系統において「稀なオス」が機能的でないことを明確に示した珍しい例であり、無性化した系統の存続性や有性生殖形質の退化を議論するうえで重要な知見を提供する。