| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨
ESJ71 Abstract


自由集会 W08-2  (Workshop)

トゲゴミグモの交尾器破壊 : 不完全な破壊がもたらす再交尾抑制
Incomplete external genital mutilation suppresses female remating in an orb-web spider

*西嶋武頼(九州大学), 鈴木佑弥(徳島県立博物館, 九州大学), 中田兼介(京都女子大学), 立田晴記(九州大学)
*takeyori NISHIJIMA(Kyushu Univ.), Yuya SUZUKI(Tokushima Pref Mus., Kyushu Univ.), Kensuke NAKATA(Kyoto Women's Univ.), Haruki TATSUTA(Kyushu Univ.)

 メスが多回交尾を行う配偶システムを持つ生物では、オスが自身の父性確保のために、メスが他のオスと再交尾することを抑制する様々な戦略が進化している。オスによるメスの再交尾抑制戦略は、交尾後ガードや化学物質、交尾栓など多岐に渡るが、中にはメスの身体に物理的損傷を与える事例も知られている。クモでは「交尾器破壊」と呼ばれる、オスが交接時にメスの外雌器に存在する「垂体」と呼ばれる構造を破壊する行動が近年発見され、これまでに5種の円網性のクモで報告されている。垂体を失ったメスは後続のオスとの交接に失敗するため、交尾器破壊はオスが父性を確保するために役立っていると解釈できる。
 本研究では、新たにトゲゴミグモでも交尾器破壊とそれによる再交尾抑制が生じることを確認した。野外で既交尾メスを採集するとその大部分は垂体が失われているが、一部垂体が残存している既交尾メスが見つかる。本研究では、未交尾メスを用いた交尾実験により、トゲゴミグモの交尾器破壊には2回以上の触肢の挿入が必要であることが明らかになった。加えて、垂体が無い既交尾メス、垂体が残存する既交尾メスを対象に交尾実験を行った結果、垂体が無い個体では再交尾が完全に抑制されたほか、垂体が残存する個体でも交尾成功率が未交尾メスと比較して著しく低下した。また、交尾前後で垂体の顕著な状態変化が電子顕微鏡下で観察された。以上の結果から、垂体の完全な破壊には複数回の触肢の挿入が必要だが、破壊が不完全であっても部分的損傷により垂体に状態変化が生じ、再交尾が困難になると考えられる。更に、先行研究との比較により、交尾器破壊の発生率やメスの受容性には顕著な種間差があることが明らかになった。
 本講演では、トゲゴミグモの研究結果を中心に、交尾器破壊と再交尾抑制の関係について、他種で判明した事例を交えて考察し、配偶相手を独占するクモたちの直球のラブ魂について議論を深めたい。


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