| 要旨トップ | 受賞講演 一覧 | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨
ESJ71 Abstract


第28回 日本生態学会宮地賞/The 28th Miyadi Award

多様な島を利用する鳥類の進化と生態系機能
Evolution and ecological function of birds using various types of island habitats

安藤 温子(国立環境研究所生物多様性領域)
Haruko Ando(Biodiversity Division, National Institute for Environmental Studies)

隔離された島嶼部は進化の実験場とも呼ばれ、進化生態学の根幹をなす重要な研究が数多く行われてきた。島嶼効果と呼ばれる、島に特有の進化についてもよく知られており、生物の移動能力が低下する現象はその代表的な事例である。しかし、島に定着した生物が、必ずしも島嶼効果の王道を進むとは限らないということが、カラスバトを対象とした一連の研究で明らかになってきた。

カラスバトは東アジアの島嶼にのみ分布するが、生息地の諸島を形成する島間を数キロから百数十キロのスケールで飛び回っている。カラスバトは生息地の中で最も隔離された小笠原諸島において、他地域よりも長距離飛翔に適した翼形態を保持していた。鳥類の飛翔能力は、より隔離され捕食者の少ない島嶼環境ほど低下傾向にあるとされているが、本種の場合これに当てはまらず、在来捕食者が不在でも島々を飛び回る適応的意義があると考えられた。

観察調査の結果、カラスバトは季節的に異なる島に移動するだけでなく、1日の間にも隣接する島間を往復しており、諸島内の島々を異なる時空間的スケールで利用していることが明らかになった。カラスバトの島間移動頻度は、その繁殖期や食物利用に関連していることから、本種が繁殖地に対する選択性や、島々の季節的な資源分布に応じて移動している可能性がある。このように、諸島内で性質の異なる島を移動し使い分けるという行動は、諸島という地理的環境に対する鳥類の適応と言えるかもしれない。

主に果実食であるカラスバトの島間移動は、海を超えた植物の種子散布にも貢献していた。移動性の高い鳥類による諸島スケールの生息地利用と生態系機能は、島嶼生態系の成立過程にも影響を及ぼしているだろう。

上陸困難な離島に生息する野生生物の生態解明において、私は分子生物学的手法を積極的に活用した。上述の研究はいずれも遺伝構造解析やメタバーコーディングによる食性解析の結果を基に展開したものだが、こうしたアプローチが可能になったのは、ゲノム解析技術の急速な発達によるところが大きい。ゲノム情報に誰でもアクセスできる時代、データに適切な意味を与え、研究の発展と社会還元への道筋を見出していくためには、フィールドに根差した知見の蓄積こそが、これまで以上に重要になるのではないかと思っている。


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