| 要旨トップ | 受賞講演 一覧 | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨
ESJ71 Abstract


第28回 日本生態学会宮地賞/The 28th Miyadi Award

生態系・力学系・複雑系: 予測制御の生態学に向けて
Ecosystems, Dynamical Systems, and Complex Systems: Toward an Ecology of Predictive Control

鈴木 健大(理化学研究所バイオリソース研究センター)
Kenta Suzuki (RIKEN BioResource Research Center)

 気象モデルにおけるカオスの発見から間もなく、Robert Mayは個体群動態を記述する1次元の離散方程式に複雑な振舞いが現れることを見出し、これが数学的にカオスといえることも同時期に証明された。カオスの発見は「複雑系」という新しい自然観が生まれるきっかけのひとつとなった。コンピュータの性能の向上とともに、数値シミュレーションでみられる非線形系の振舞いを生態学的な文脈で解釈する研究が現れ 、また一方で、一見ランダムに見える観測データからカオスを検出するための方法論は非線形時系列解析として体系化された。
 非線形力学系はそれ自体さまざまな興味深い振舞いを示し、対象によらない普遍性をもつ。それは生態系とその他の複雑な多要素系をつなぐマクロな視点を提供しうる。しかし、広大なパラメータ空間と対峙するために必要な仮定は、本来理解の対象である現実の系との乖離を大きくしてしまう 。
「非線形力学系の豊かな現象論を現実の多種生態系に結びつけるために何ができるか?」
この問いは、私がこれまで取り組んできた多くの研究の背後にあるように思う。こうした問題意識と呼応するように、近年の生態学では非線形時系列解析のような非線形力学系の方法論・コンセプトに注目が集まり、機械学習的なアプローチとの融合など、実りの多い進展につながっている。また、種分布モデルの状態空間をエネルギー地形として捉えることで、群集動態のモデルがデータ効率良く得られるエネルギー地形解析はいままさに萌芽の段階にある。
 これらを基盤とし、多種生態系の動態を正面から扱う生態学を体系化することができるだろうか。もちろん方法論についてもまだまだ洗練や精緻化の余地がある。観測や実験技術に依るところも大きい。ただそればかりでなく、非線形力学系の現象論を真摯に見直し、学ぶことの重要性も感じている。本講演では、こうした事柄について時間の許す限り話したい。


日本生態学会