| 要旨トップ | 受賞講演 一覧 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
第1回 日本生態学会自然史研究振興賞/The 1st Natural History Award
双翅目昆虫は森林・草原・陸水環境で種数・個体数共に主要な昆虫である.これらは分解者,捕食者,植食者,寄生者として,そして植物や菌類の繁殖に強く関係する送粉者・胞子散布者,他の昆虫などの天敵あるいは被食者であり,陸域の生物多様性や生態系の動態・景観と深く関係している.
双翅目昆虫は国内で約8000種弱記録されているが,実際にはその2~3倍あるいはそれ以上の種が分布していると予測されている.これらについて,どのような種が地域ごとの群集を構成し,各生態系でどのような機能を果たしているか十分に明らかにされていない.国内に分布する双翅目昆虫の分類を整備し,地理的分布など自然史情報を蒐集・蓄積することで,各地の生物多様性情報や森林などの生態系における双翅目昆虫の機能を理解する自然史研究を行ってきた.
双翅目昆虫の幅広い分類群で訪花性が知られており,その機能の量的な評価に関する研究が近年大きく進展している.国内で多様に分化し、希少種を多く含むテンナンショウ類やカンアオイ類などの繁殖に関与するキノコバエ類などの分類・同定を行い,これらの植物の繁殖や種多様性維持機構,花の形態機能の記載に貢献した.また,ナシやソバなど農作物を訪花する双翅目昆虫の同定を行い,これらの生産に関わる森林性双翅目昆虫の重要性の記載に貢献した
双翅目昆虫に農林業や公衆衛生に係る害虫が多く知られており,現在も新しい害虫種が国内で次々と見つかっている.それらを同定し,新種の記載や国内未記録種の報告を行い,地理的分布,植物・きのこ・寄生者など他の生物との関係を野外調査で明らかにし,さらに多様な文献情報をもとにそれらの自然史を網羅的に記載した.多種多様な農産物の害虫となるキノコバエ類の群集構造に影響を及ぼす森林環境を明らかにし,これらの自然史情報を参照しながら,農林害虫種の被害防除に向けて重点的に行うべき対策を提示した.
これらの研究成果は,国内外各地の野外で得た13万点以上の標本および国内外20ケ所以上の公的研究機関に保存された標本に基づいている.これらのうち,属・種の同定を行った標本を原著論文などで公開し,上記研究機関に証拠標本として分与収蔵したり,各種研究機関の収蔵標本の目録を作成・公開したりするなど,自然史標本コレクションの整備を推進した.また、総説・図鑑の執筆や同定・検索表の作成などにより,これら自然史標本の利活用を促進した.