| 要旨トップ | 受賞講演 一覧 | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨
ESJ71 Abstract


第12回 日本生態学会奨励賞(鈴木賞)/The 12th Suzuki Award

樹木における木部形態の多様性と生態学的意義
Diversity and ecological significance of xylem morphology in trees

河合 清定(国立研究開発法人国際農林水産業研究センター)
Kiyosada Kawai(Japan International Research Center for Agricultural Sciences)

固着性の植物は、その場の環境に適した形態を示すと考えられる。これは、形態は機能と結びついており、その場で取りうる機能は環境によって制限されるからである。しかし、形態が持つ機能や生態学的意義については、検証すべき仮説の多さや、検証方法の難しさなどから、特に野外集団においてわかっていないことが多い。
   演者は、陸上植物において水輸送や力学的支持等に関わる木部の形態・解剖学的特性に注目し、その多様性や機能、環境応答について、熱帯から亜寒帯までの樹木を対象にこれまで研究を行ってきた。葉の木部である葉脈を対象にした研究では、葉脈形態が葉の通水性、乾燥耐性、力学的強度と関連していること、形質進化における系統的な制約は少ないことを明らかにし、広域スケールでの環境適応に関与している可能性を示した。また、幹木部の主要構成要素である柔細胞に着目した研究からは、柔細胞の割合が、乾燥下における水輸送能力や貯蔵糖量と関連していることがわかった。さらに、林業樹種の産地系統を対象にした研究では、木部の解剖学的特性から推定される個体全体の通水構造が、個体の葉群配置や成長速度と関連していることを見出した。
   以上のように、植物の形態研究は、資源利用戦略や適応進化といった植物生態学における基礎的課題だけでなく、有用品種の育種選抜や、気候変動に対する植物群集の応答予測といった、応用的な課題に対しても貢献できる可能性がある。本講演では、演者らの研究も紹介しながら、植物の形態研究の今後の展望について議論したい。


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