| 要旨トップ | 受賞講演 一覧 | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨
ESJ71 Abstract


第12回 日本生態学会奨励賞(鈴木賞)/The 12th Suzuki Award

陸淡水域の貝類をモデルに生物の分布形成プロセスを理解する
Understanding the history of distribution of organisms using terrestrial and freshwater mollusks as a model system

齊藤 匠((チェコ共和国)マサリク大学理学部)
Takumi Saito(Masaryk University, Faculty of Science)

生物の分布の変遷や拡大は、種分化などの生物の多様化メカニズムの基礎となりうる。多くの生物は歴史的に形成された広い分布を持つが、陸淡水域の貝類のように、自力ではほとんど移動できない生物であっても、このような広い分布をしばしば有している。このような現象は古くから研究者の関心を集めており、そのメカニズムの解明のため多くの研究がなされてきた。しかしながら、分散や定着、多様化などのプロセスの統合的な理解にはさらなる研究が必要である。本発表では、移動能力の低い貝類がどのように分布を広げ、多様化して来たのかを、発表者の研究成果を中心に考察する。具体的には、1)鳥類を介した長距離分散の実証例、2)分散の成功(=定着)を制限する要因の解明、3)長距離分散の性質と遺伝構造への影響について、個別の研究事例を紹介したい。1)では、日本で発見された鳥類に付着した淡水貝類が検討の結果、オセアニア地域から鳥とともに飛来した可能性が高いことを示す。2)では二つの異なる分類群の貝類を例に、祖先分布域の推定や生態ニッチモデリングを用いて、気候が分布の形成と変遷に与えて来た影響を明らかにする。3)では海洋島である小笠原諸島父島のヒラマキガイ科貝類を例に、稀な分散による遺伝構造形成の実例を紹介する。これらの研究から、低頻度な長距離分散の重要性が強調され、生物の分布の変遷が、移動力に乏しい生物であっても、非常に動的なプロセスであることが強く示唆される。最後に、これらの研究や今後の展開を含めて、貝類を通した多様化プロセスの統合的、多面的な理解について簡単に議論したい。


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